

頑張るあなたに伝えたい「立ち止まる勇気」。ハラミちゃんのキャリアストーリー
2025/05/19
「やりたい仕事が見つからない」「今の仕事に迷いがあるけど、新しいことに一歩踏み出す勇気がない」。そんな悩み多き求職者に向けて、自分らしい生き方のヒントをお届けするインタビュー企画。
今回登場するのは、ポップスピアニストのハラミちゃん。ストリートピアノの演奏動画でブレイクし、YouTubeのメインチャンネル登録者数は現在228万人。女性ピアニストとして15年ぶりに日本武道館で単独公演を成功させるなど、今や日本を代表するピアニストのひとりです。
しかし、かつてはピアニストの夢を諦め、会社員時代には体調を崩して休職するなど、挫折を味わった経験も。そんなハラミちゃんに、最初の一歩を踏みだすコツや決断の仕方などについて聞きました。

高2で夢破れ、音大卒業後はIT企業に就職

ー4歳の頃にピアノを始め、小学1年生の時には「才能があるから音大に行くといい」と勧められたハラミちゃん。ピアノ漬けの少女時代だったそうですね。
ハラミちゃん:いつの間にかピアノが自分のアイデンティティになっていました。友達ができるきっかけもピアノだったし、自分の価値はピアノにあると感じていました。これをやめたら自分がなくなるとさえ思っていましたね。楽しいとか楽しくないとかそういう感覚ではなく、なくてはならないものという感じ。中高生になっても、みんなが進学先や文系・理系の選択で悩んでいる中、「私は6歳の頃からピアニストになるって決めていたから悩まなくていいんだ、ラッキー!」と本気で思っていました。
ーしかし高校2年生の時、有名なピアノの先生に「あなたにピアニストは無理」と告げられたとか。
ハラミちゃん:その先生はピアノ界ではものすごく有名な方で、レッスンを受けるにもオーディションが必要なんです。その方の前で演奏した時に「あなたは第1志望の音大には行けないし、ピアニストにもなれない」とはっきり言われました。その瞬間はあまり意味が分かっていなかったですね。初対面の方に、周囲に誰もいない状況で告げられたので、うまくリアクションが取れませんでした。
「……私、夢、破れた?」とじわじわ理解し始めたのはその帰り道。私はピアニストにはなれないんだと絶望しました。でも正直「見返してやる!」という気持ちにはならず、「やっぱりそうですよね」という諦めの方が強くて。その頃にはコンクールで上には上がいることを知っていたし、同世代で自分がどの位置にいるかも分かり始めていました。だから、無理やり第一線に行こうとしていたのを「あなたは違うよ」とバッサリ言われて、少しラクになった気さえしたんです。
ピアニストの道を完全に諦めたのは、数ヶ月後。その先生が教えている生徒さんの発表会を見に行った時、小学3年生くらいの子の演奏を聴いて「勝てない」と思ったんです。難易度の高い曲ではなかったけれど、「私がどんなに頑張っても、この子には敵わない」と確信しました。その時、自分が井の中の蛙だったことを思い知らされましたね。それまで自分なりに必死に努力してきたけれど、「これ以上伸びないかもしれない」と思ったら、もう頑張れなくなりました。だから大学は音大に進んだものの、卒業後は全く関係ないIT企業に就職したんです。

ーIT企業に就職後、ピアノへの未練を感じたりしませんでしたか?
ハラミちゃん:うーん、仕事が大変な時は「やっぱり私には音楽なのかな……」と考えたり、同世代のピアニストが活躍する姿を見て「いいなぁ」と思ったりはしてましたね。でも今振り返ると、それは仕事がうまくいかない時に、ちょっと逃げたくなっていただけだったんだと思います。
あと、たまに会社でサウンドエフェクト関連の相談を受けることがあるとうれしくて、そういう時は「やっぱり私は音楽が好きなんだな」と感じることもありました。でも、会社員としての生活がすごく充実していたので、ピアノへの未練を強く感じることはほとんどなかったです。
ーということは、IT企業での仕事は基本的に順調だったんですね。
ハラミちゃん:はい、めちゃくちゃ充実していて、すごく好きでした。先輩にも後輩にも恵まれて、本当に楽しかったです。「会社で働くのっていいな!」と思っていましたし、ITの仕事にもやりがいを感じていました。世界中からリアクションがあるのが面白くて、「次はどんなことを仕掛けてみようかな?」とワクワクしていましたね。
ただ、パソコンに触ったことすらない状態でIT企業に入ったので、最初はいろいろと大変でした。私、パワーポイントのことを「プレゼン資料を作るソフト」じゃなくて、まんま直訳して「力の入れどころ」だと思っていたんですよ(笑)。それくらい何も知りませんでした。でも、少しずつ学んでいくのが楽しくて、気づけばどんどん仕事にのめり込んでいましたね。
現在にもつながる、会社員時代のあの経験

ー少し話を戻します。なぜ就職先にIT企業を選ばれたのでしょうか? 当時、どのような軸で就職活動をしていたのか教えてください
ハラミちゃん:ピアノしか知らなかったから、業界なんて絞れる立場の人間じゃないと思ってたんです。何から始めればいいのかも分からなかったので、とにかくいろんな説明会に片っ端から足を運びました。一度、就職活動というものを思いきりやってみようと思ったんですね。
実際に話を聞くと、どの企業さんも魅力的に思えてしまって、気づけば100社くらい回っていました。でも、さすがに全部対策するのは無理だなと気づいて、最終的に4社に絞りました。選ぶ基準にしたのは「人」と「自分の性格に合うかどうか」。私は「なんでもやります!」というタイプで、泥臭く食らいついていくスタイルだったので、そういう姿勢を評価してくれる会社を選びました。
また、4歳からクラシックを学んできたので、伝統的・古典的なものの良さを実感する一方、「真逆の世界に飛び込んだら、人生がもっと楽しくなるかもしれない」とも思ったんです。そこで、「最先端の分野で、世界中に情報を届けられて、かつ柔軟な働き方ができる仕事は何か?」と考えた時、IT企業がぴったりだと感じました。 でも、そうして希望通りIT企業に入社し、社内MVPを獲ったりもしたんですが、頑張りすぎて体調を崩して休職することに。その休職期間中、先輩に連れ出されて東京都庁でストリートピアノを弾いたことが転機になりました。演奏の様子を撮影した動画がバズったことが、ハラミちゃんとしての活動が始まるきっかけになったんです。
ー動画がバズった時点では、音楽を仕事にすることは考えていなかったんですか?
ハラミちゃん:まったく考えていなかったです。むしろバズっていることに恐怖を感じていました。コメントが2〜300件もついていたのですが、怖くて恐る恐る薄目で見ていたくらいです。でもほとんどがポジティブなコメントでした。
音大を卒業した元コンクールガチ勢からすると、あの演奏はミスタッチだらけのとんでもなく荒い演奏なんです。でも誰もそんなことは書いていなくて。「笑顔で楽しそう」とか「すぐ弾けるのすごい」とか、「金髪のピアニスト初めて見た」とか。「え、着眼点そこ?」みたいな意外な角度から、素敵な言葉をたくさんいただいて、びっくりしました。コンクールで結果を出せず、受験期には先生にもピアニストは諦めろと言われ、小さい頃からずっと満たせなかった何かがスーッと浄化された感覚になりました。
それで少しずつ前向きな気持ちになれて、「貯金が尽きるまではこの道でやってみようかな」と思い、現在に至ります。

ー会社員時代の経験で現在の仕事に生きていることはありますか?
ハラミちゃん:たくさんあるけれど、一番は「見せ方・伝え方」ですね。入社1年目の時、新規事業案を発表する機会があったんです。私は情報をぎっしりスライドに盛り込んで、「こんなにすごい! こんなに良いことがある!」とめちゃくちゃ熱量を込めて発表しました。でも、全然伝わらなかったんです。
その時、上司が私の資料をバサバサ削って、「これだけでいいんだよ」とシンプルにまとめてくれたんです。その資料を元に、私の事業案を先輩があらためてプレゼンしてくれたら、驚くほど分かりやすくて。「資料を作る側」と「発表を聞く側」の視点って、こんなにも違うんだと衝撃を受けました。
ハラミちゃんとして活動する今も、「情報の出し方」や「引き算の大切さ」は常に意識しています。コンサートにはどんな人が来るのか、キャパはどれくらいなのかなど、相手や状況に合わせたパフォーマンスを考えるようにしています。これは会社員時代に培った大きな学びですね。
ーYouTubeの企画を考える際も、そうした「見せ方」や「伝え方」を意識しているんですか?
ハラミちゃん:いや、正直に言うと、YouTubeではあんまり考えていないんです。というのもYouTubeは「気楽に楽しむ場」としてやっているから。私は考えすぎると行き詰まっちゃうので、ただの日記みたいな感覚で肩の力を抜いてやっています。自分の活動の中でもしっかり考える部分と、あえて考えすぎない部分を分けていますね。
休職していた半年間が、人生でもっとも価値のある時間に

ー転職を考えている人の中には、現状に不満があってもなかなか一歩を踏み出せない人もいると思います。最初の一歩を踏み出すためには何が必要だと思いますか?
ハラミちゃん:休むこと! この記事を読んでいる人は、そもそも意識が高くて、自分の人生をまじめに考えている頑張り屋さんだと思うんですね。そういう人ほど、休むことへの抵抗感や罪悪感を覚えやすいんじゃないかな。私も会社員時代、「有休って何?」みたいな感じだったし、休みを取っても「頑張らなきゃ」という意識が抜けず、本当の意味では休めていませんでした。
でも、休職して半年間しっかり休んでみたら、それが私の人生の中で、もっとも価値のある時間になったんです。もちろん働いていた時間も価値はあったし、そのまま続ける選択肢もあったと思います。でも、それ以上に「休むこと」には大きな意味がありました。私はその半年間で、あらためて自己分析をして、いろんな本を読んで、本を読みながら感じたことを誰にも見せるわけなく書いてみました。そうしたら、走り続けていたら見えなかった景色が少しずつ見えてくるようになったんです。
「私、死ぬ時に何を思いたいかな?」と考えた時、理想は「やりたいこと全部やったな。この人生で良かったな」と思いたい。でも、このまま突っ走るだけでそうなれるんだろうか。たぶんなれない。生活やお金はもちろん大事だけれど、もうちょっと自分の気持ちに正直に生きる方法があるんじゃないか——そう気づくことができたんです。
だから休む勇気ってすごく大事。でも世間はあまり勧めてくれませんよね。「頑張らなきゃいけない」という暗黙の同調圧力のようなものがあると思います。でも、その圧力に負けないで、一回立ち止まって、ちゃんと休んでみる。まじめな方ほど、そうしてほしいですね。

ー何かを決断する上でのマイルールがあれば教えてください。
ハラミちゃん:自分が笑顔でいられる選択肢を選ぶことですね。人、場所、雰囲気、なんでもいいけれど、「この選択をしたら、自分は笑顔でいられるかな?」と想像してみるんです。あとは、期限を決めること。たとえば「今月末までに決める!」と先に締め切りを設定してしまいます。私のように優柔不断な人にはおすすめです。
ー最後に、仕事で悩んだり落ち込んだりしている人、仕事探し中の人にエールをお願いします!
ハラミちゃん:「人間関係リセット症候群」という言葉がありますが、私は結構、肯定派なんです。人生は1回きりだけど、実は何回でもやり直せるし、職業だって何を選んでもいい。なのに「自分にはこれしかない」とか「自分の居場所はここだけだ」って思い込んでしまう時ってありますよね。それはただ、心が縮こまって、息が吸いにくくなっているだけかもしれません。一度、思い込みを手放してみると、「自分で自分を縛っていただけだったんだ」「固執していただけだったんだ」と気づくこともあります。
だからこそ、一度休んだり、立ち止まったりすることが大切。無理に前進し続けることが必ずしも良い結果を生むわけではなく、時には一歩引いて自分を見つめ直すことも必要です。積極的に休んでリセットして、胸を張って空気を吸える場所を、自分のペースで探してほしい。何度でも新しい自分に生まれ変わって、理想の人生を送ってほしいですね。

YouTubeやメディア出演、コンサートなど、輝かしい活躍を見せるハラミちゃん。常に笑顔を絶やさない姿の裏には、若い頃に夢破れた経験や、会社員として頑張りすぎたがゆえの挫折がありました。だからこそ、彼女が発信する「休んで」という言葉には説得力があります。「今のままでいいのかな」と迷った時こそ、一度立ち止まって、これまでとは違う視点で周囲を見渡してみることが大切かもしれません。
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(企画:株式会社十三夜 / 編集:株式会社エクスライト / 取材・執筆:山田宗太朗 / 写真撮影:ただ)
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