「仕事は頑張るもの」じゃない? こっちのけんとのキャリアストーリー

2025/04/16

「やりたい仕事が見つからない」「今の仕事に迷いがあるけど、新しいことに一歩踏み出す勇気がない」。そんな悩み多き求職者に向けて、自分らしい生き方のヒントをお届けするインタビュー企画。

今回登場するのは、マルチクリエイターのこっちのけんとさん。2024年にリリースした『はいよろこんで』が大ヒットし、日本レコード大賞の最優秀新人賞を受賞。紅白歌合戦にも出場を果たしました。一方で、双極性障害であることを公表し、会社員時代にはうつで休職した経験も。そんなこっちのけんとさんに、最初の一歩を踏み出すコツや得意なことを見つける方法などについて聞きました。

会社員は楽しかったが、頑張りすぎて身体を壊してしまった

ー大学を卒業後、コンサルティング会社に新卒で就職されたそうですね。一般企業で働くことを選んだ理由を教えてください。

こっちのけんと:当時、僕には3つの選択肢がありました。兄のように芸能の道に進むか、父の経営コンサルの仕事を手伝うか、一般企業に就職するか。まず芸能の道は、すでに兄が活躍していたので「一家に2人も芸能人はいらない」と思い、選びませんでした。次に、父の仕事を手伝うとしても、いきなり父の元に入るのは違う気がしたんです。そこで、まずは同じような業種の会社で経験を積むべきだと考え、一般企業に就職しました。

ー父親と同じ仕事をすることに抵抗はありませんでしたか?

こっちのけんと:全くなかったですね。父は小さい頃から仕事の現場を見せてくれて、株主総会や異業種交流会にも連れて行ってくれたんです。そこで受付や資料配布の手伝いをしたり、父の顧問先の方々と顔なじみになったりしているうちに、自然と業界の空気感をつかめるようになりました。経営の面白さも感じていましたし、自分はすでに仕事に必要なスキルを持っているという自信もありましたね。

ーということは、もし会社を辞めていなければ、今もコンサルを続けていたのでしょうか?

こっちのけんと:そうだと思います。当初は3年働いてから、そのまま同じ会社で続けるか、父と組むか考えるつもりでした。でも、入社半年で動けなくなってしまったんです。

仕事自体はとても楽しかったのですが、やりすぎてしまいました。お客さまのためにできることは全部やりたいと、必要以上に頑張りすぎたんです。例えば、1年間のロードマップを作る仕事なのに、10年先まで考えて過剰に提案してしまったり。

コンサルは社長相手にものを言う仕事です。でも自分は新入社員なので、そのギャップを埋めるために家でも必死に勉強していました。先輩が得意とする業種の隣接分野まで学んだりして。今思うと、「完璧な社会人」への憧れが強すぎたのかもしれません。結局、一年で退職することになりました。

ー会社員時代の経験で、現在の仕事に生きていることはありますか?

こっちのけんと:「予習」ですね。もともと準備するタイプでしたが、会社員になってからはより徹底するようになりました。業界ごとに知らない専門用語がたくさんあるので、事前に勉強して、毎回単語テストをしている感覚でした。そこまでしなくても、メモを取って後から先輩に聞けばよかったんですけどね。

でもこの予習グセは今でも続いていて、共演する方のことは、できるだけ事前にインプットするようにしています。最初はどこまで調べるべきか迷いましたが、DJ KOOさんが共演相手についての情報をノートにびっしり書いていると知り、「もっと予習すべきだな」と思いました。なるべく関連作品を観たり聴いたりして、「あれ観ました」「あの歌が好きです」くらいは伝えられるようにしています。

ー2024年は大ブレイクの1年でしたが、その忙しい中でも続けていたんですか?

こっちのけんと:もちろん調べきれないことも多かったんですが、例えば演歌業界などは全く知らなかったので、日本レコード大賞や紅白歌合戦の前にはできるだけ聴くようにしていましたね。

「これは違った、あれも違った」をどんどん重ねて、得意なことを見つけよう

ー音楽制作は自宅療養中に始めたそうですが、最初から仕事にするつもりだったんでしょうか。

こっちのけんと:いえ、全くそんなことは考えていませんでした。療養中は自分が本当にやりたいことしかできなくて、それが音楽だったんです。プロを目指すつもりはなく、むしろセラピーのような感覚でした。

ーでは、音楽を職業にすると決めたのはいつ頃ですか?

こっちのけんと:実は今も「職業にする」と明確に決めた感覚はないんです。仕事として続ける覚悟はありますが、歌手という肩書きにこだわりはなくて。自分の経験を発信することで誰かの役に立てるかもしれないと気づいた時、たまたま歌がちょっと得意だったから表現方法に選んだだけなんです。もし絵が得意だったら絵を描いていたかもしれないし、ビジネスが得意だったら何かのサービスを立ち上げていたかもしれません。

マルチクリエイターとして振り付けを行うのも同じ理由です。たまたま得意だったからやっているだけ。僕は小学生の頃からダンスを習っていましたが、当時はダンスを習う男の子が珍しく、学校の出し物などで振り付けを任されることが多かったんです。ダンス未経験の人でも踊れるように、簡単な振り付けを考えていました。そういう偶然が、今の仕事につながっているんです。

ー歌手という肩書きにこだわりはないとのことですが、今後も音楽を続けていく上で、大切にしていることはありますか?

こっちのけんと:無理に曲作りのモチベーションを上げようとしないことですね。今は自然に湧いてくる気持ちに任せて曲を作っていますが、「頑張らないと」と意識し始めると、僕の場合は空っぽになってしまう気がして。

僕にとってモチベーションとは、努力して上げるものではなく、自然に湧くものなんです。無理にコントロールしようとすると、会社員時代の「あっちのけんと」に戻ってしまう。やりすぎてしまうんですね。以前は「仕事とは頑張るもの」だと思っていましたが、今は「得意なことを淡々と続けるもの」だと考えるようになりました。僕にとっては、メロディーを作り、歌詞を書き、歌うことが得意なことだったんです。

ー得意なことを見つけるにはどうしたらいいでしょうか。

こっちのけんと:大きく分けて2つの方法があると思います。ひとつは、人から褒められたこと。もうひとつは、「なんで他の人はこれができないんだろう?」と疑問に感じること。これが自分の得意なことなんだと思います。僕の場合、歌は子どもの頃から母がずっと褒めてくれていました。兄も自身が歌手デビューした時に「実は弟が歌うまいんです」と言ってくれていたので、勘違いかもしれないけど「自分は歌がうまいんだ」と思えたんです。

また、大学でアカペラを始めてからは、だんだん自分の声質に合わせてボーカルをアレンジするようになり、「自分はメロディーを考えるのが得意なのかも」と気づきました。

だから、まずは好きなことができる環境に入ってみて、そこで自分が先頭を走れるか試してみる。もし走れるなら得意なのかもしれないし、そうでなければまた別のことを探せばいい。そうやって得意なことを見つけるのがいいと思います。

自分が何を好きかは、YouTubeの登録チャンネル欄でも見ればすぐに分かると思うんです。例えばガジェットが好きで、特にキーボードに興味があるなら、キーボードのイベントに足を運んでみるとか。自分で作ったり、出展してみたりするのもアリですよね。その結果、もっとやりたいと思うのか、そうじゃないのか、自分の心がどう反応するかで先に進むかどうかを決めればいい。

ーやっぱり、まずは行動が大事なんですね。

こっちのけんと:そうですね。振り返ると、僕もいろいろ行動していたと思います。学生時代にはテレビ番組のADや、衆議院議員の秘書も経験しました。その結果、「やっぱり歌か」という結論に落ち着くことができました。だから「これは違った、あれも違った」という経験は大事だと思います。その過程で見つけた得意なことやラクだったことを、メインの仕事にできたらいいですよね。

僕の場合、会社員になってすぐに、うつになったことで気づけたのが本当によかったと思っています。もし倒れていなかったら、今も無理やり頑張っていたかもしれない。いつか行き詰まって「本当の幸せってなんだっけ……?」となっていたはずなので、うつになったことは自分にとってプラスのターニングポイントでした。

時にはめっちゃアホになり、前でも後ろでもいいから進んでみる

ー転職を考えている人の中には、現状に不満があっても、なかなか一歩を踏み出せない人もいると思います。最初の一歩を踏み出すためには何が必要だと思いますか?

こっちのけんと:父がよく言っていて、僕も実践しているのが「めっちゃアホになる」こと。自分が無知であることすら忘れるくらいアホになれたら、踏み出す怖さがなくなるんです。

実際、音楽制作にもこの姿勢は生きていますね。アカペラの経験はあったものの、楽譜は読めないし、楽器もできない。でも、ただ開き直るのではなく、「自分は何も知らないんです」と謙虚でいることで、曲作りの際にいろんな人に教えてもらうことができたと思います。

ー何かを決断する上でのマイルールがあれば教えてください。

こっちのけんと:大きな決断をする時は、まずいろんな人に意見を聞くことですね。「世論を身体に入れる」感覚というか。さまざまな意見があることを認識した上で、自分の考えを整理します。その結果、最終的な決断が意見を聞く前と同じだったとしても、「こういう意見もあるんだ」と知った上で考えているので、自分の考えや感覚がよりクリアになって、軸もしっかりする気がするんですよね。

ー今後、目指したいことはありますか?

こっちのけんと:とにかく今は曲を作ることですね。『はいよろこんで』が作れた時の感性が冷めないうちに、できるだけたくさん作りたい。この曲から出た"出汁"をおいしいうちに、全部使い切りたいんです。同じ味をもう一度作るのは無理だし、年齢や環境によって表現したいものは変わってしまうので。

ー出汁を使い切ることへの怖さはないですか?

こっちのけんと:それは全くないですね。時代が変われば、作品の受け取られ方も変わるし、いずれは必ず腐るものです。「10年かけてゆっくり使おう」なんて考えていたら、たぶん5年後にはもうこの出汁は使えなくなっている。ナマモノなので、今このタイミングで使い切らなければいけないと思っています。

ー最後に、仕事で悩んだり落ち込んだりしている人、仕事探し中の人にエールをお願いします!

こっちのけんと:僕も現在進行で悩んだり落ち込んだりしていますが、昨年の経験ですごく感じたのは、不安やコンプレックスを無理に解消しなくてもいいということ。むしろ持ち続けることで咲く花もあるんだなと。

今の仕事を続けるのも、思い切って変えてみるのも、どちらも間違いじゃない。悩みを抱えたままでもいいから、とにかく動いてみることが大事です。その結果、何かしら確かなものが見えてくる。「やっぱりこれは違ったな」とか、逆に「これでよかった」とか。だから、前でも後ろでもいいので、まずは一歩踏み出してみてほしいです。

ただし、無理をしすぎないこと。ごはんが食べられない、夜眠れない。そんなふうに身体が警報を鳴らし始めたら、それにちゃんと目を向けてください。自分が無理をしているのか、自然体でいられているのか、そこをしっかり見極めることも大切ですね。

紅白出場や日本レコード大賞の受賞など、華々しいキャリアを築いているこっちのけんとさん。しかし、その道のりは決して順風満帆ではなく、試行錯誤や迷いの連続でした。だからこそ、さまざまな人の意見に耳を傾けながら、「とにかく動いてみる」ことを大切にしてきたのかもしれません。「今のままでいいのか」と悩む時こそ、1人で抱え込まず、いろんな人の声を聞いてみることが大切ですね。

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(企画:株式会社十三夜 / 編集:株式会社エクスライト / 取材・執筆:山田宗太朗 / 写真撮影:ただ)