半導体業界の人材不足の現状とは?原因や見通し、解消する対策
半導体は自動車産業やロボティクスに欠かせない製品であり、今後世界的に需要増が見込まれています。日本でも半導体の生産基盤を強化しようという動きがあり、海外の半導体製造企業の誘致や、次世代半導体技術の習得といった取り組みが進められています。
一方で、半導体業界では人材不足が深刻化しており、生産基盤の強化に向けての人材確保が目下の課題です。人材が不足している背景には半導体業界特有の要因があるため、本記事ではその実情を取り上げます。
もちろん、人材不足に対して打つ手がないわけではありません。さまざまな取り組みがすでに進められており、特に半導体の工場が多い九州では、産学連携で人材を育成する動きがあります。さらに、企業の側から見れば、派遣社員を活用するという方策も有効です。半導体業界の人手不足の理由と対策について、派遣人材の活用という切り口から見ていきましょう。
半導体業界の人材不足の実情
半導体業界では今、人材の確保が大きな課題となっています。たとえば、電子情報技術産業協会(JEITA)の半導体部会のメンバーであるキオクシアやロームをはじめとする主要8社は、2030年までに少なくとも4万人程度の半導体人材が追加で必要との試算を出しています。
人材が不足している背景の一つは、半導体ニーズの高まりです。従来からパソコンやスマートフォン、電化製品などの幅広い分野で使用されている半導体ですが、生成AIの登場やIoTの普及といった要因によって、その需要は拡大傾向にあります。
2021年に経済産業省が公表した資料によれば、ロジック半導体やメモリを含めた世界の半導体市場は、2030年には役100兆円になると予測されています。
【出典】「第1回 半導体・デジタル産業戦略検討会議」(経済産業省)
同様にして、半導体産業の国際展示会であるも、2030年には半導体市場が1兆ドル規模に到達すると予測しました。
このような市場拡大の見込みを受け、半導体の供給不足が発生しないように製造体制の強化が求められているのが現状です。日本でも半導体工場が続々と新設されており、JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社)の熊本工場新設はその代表例です。JASMは半導体の受託生産で世界トップの台湾積体電路製造(TSMC)が過半数を出資した子会社で、熊本工場では約1,700人もの雇用を創出するとされています。半導体の安定供給を目指す日本政府も巨額の資金補助をしており、本格的な稼働は2024年末になる見込みです。
TSMCの工場新設と同じくインパクトがあるのが、ラピダスです。ラピダスは日本政府とトヨタ自動車やソニーなどの大手企業が手を組んで設立した新企業で、回路の幅が2ナノメートル以下の先端半導体の国産化を目指しています。北海道千歳市に工場を新設し、2020年代後半には量産化を開始する予定です。
半導体産業への投資が過熱する一方で、課題となるのが冒頭でも述べた人材確保です。製造体制強化を行っている企業ではすでに人材が不足している状態であり、設計だけでなく製造オペレーターや生産技術職の確保に苦心しています。半導体市場の拡大を考えると、人材の慢性的な不足は今後も続くと見られます。
【参考】「我が国の半導体関連産業の人材動向」(経済産業省)
【参考】「半導体市場は2030年に1兆ドル規模へ、24年と25年に2桁成長」(EE Times Japan)
半導体業界における人材不足の理由
半導体産業が人手不足に陥っている要因としては、先述の半導体ニーズの高まりが挙げられます。しかし要因はそれだけではなく、半導体業界特有の理由もあります。
人材育成が追い付いていないため
半導体業界はかつての不況の際に、事業再編やリストラ、新規採用の抑制によって人員を絞ったことがありました。近年、日本の半導体の世界シェアは低調に推移していますが、1980年代は国際競争力が高く、世界シェアの半分ほどを占めていました。
しかし、日米半導体協定や品質、業界の構造的な問題などにより、1990年代後半以降、日本の半導体産業は凋落していきます。半導体関連企業はこの時期に多くのエンジニアをリストラし、新規採用を控えたため、人材育成が進まなかったのです。
加えて、人材育成の基盤ができていないという要素も人手不足に拍車をかけています。半導体業界には技術レベルの高い人材が必要です。電気・電子系、半導体工学などの専門的知識はもちろん、最新の設備や機材を扱える技術が必須とされるため、人材の育成に時間がかかるのです。
以上のような背景から、中途採用をしようにも即戦力採用は難しく、第二新卒を含め若手人材を確保して2~3年かけて育成していく必要が生じています。
「きつい」というイメージが先行しているため
半導体業界では研究開発職や生産技術職だけでなく、オペレーターも不足しているといわれています。オペレーターの主な業務内容は以下のとおりです。
- 半導体製造装置のマシンオペーレーション
- 完成した製品の検査業務
- 梱包やピッキングなどの出荷業務
半導体製造のオペレーションは特別な資格を必要としないものがほとんどです。その一方で「きつい」というイメージが先行していることが、半導体製造の求人に人が集まらない理由となっています。
半導体製造の多くの工程はクリーンルームで行われています。クリーンルームでは、室圧を制御することで空気中に浮遊するチリやホコリ、細菌の侵入を防ぐとともに、温度や湿度の制御も行っています。製造業の現場の仕事は、「きつい」「汚い」「危険」のいわゆる3Kというイメージが根強いですが、半導体製造はクリーンルーム内での作業がメインになるため、「汚い」には当てはまりません。
ただし、クリーンルームでの作業時はクリーンスーツと呼ばれるホコリやチリを抑える作業着やフード、マスクを着用するなど、厳しい服装規定が設けられています。人によってはクリーンスーツの動きにくさやマスクによる息苦しさが負担となることがあると考えられます。
また、半導体工場は基本的に24時間稼働であり、2交代制での勤務が一般的です。立ち仕事が中心で長時間労働になることから、体力的な厳しさを感じ、避けられている可能性があります。
定着率が低いため
半導体業界を含めた製造業全体において、離職率の高さが目立つという実情も無視できません。厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査」による、産業別の入職率と離職率を示したデータでは、製造業は入職率が9.6%なのに対して、離職率が10.2%となっています。製造業は人材不足とされているにもかかわらず、新たに職に就く人よりも辞める人のほうが多いという状況に陥っているのです。
【出典】「令和4年 雇用動向調査結果の概要」(厚生労働省)
また、新規学卒者の採用にも苦戦しているのが現状です。34歳以下の若年就業者数はここ数年ほぼ横ばい状態ですが、2002年と比べると確実に減少しています。専門性の高い半導体業界では一人前になるまでに3年ほどかかることを考えると、育成の対象となる若手人材が不足していることは痛手でしょう。
【参考】「2024年版ものづくり白書」(経済産業省)
半導体業界において人材不足を軽減するには?
今後の需要増を見据えて、半導体業界では新たな人材の採用と育成が急務だということが各種データから浮かび上がってきました。それでは、どうすれば現状の人材不足を軽減できるのでしょうか。
半導体人材の確保・育成に向けた取り組みとしては、「産学連携」や「派遣の活用と人材育成を両軸で進めること」などが挙げられます。
産学連携
近年、半導体製造において台頭してきた台湾では、半導体製造企業が大学に資金や人材を投入して即戦力となる人材を育成する産学連携システムが確立されており、一定の効果を上げています。日本でも産業界や教育機関、行政機関から構成される「九州半導体人材育成等コンソーシアム」において、産学連携を強化しようという取り組みが進められています。
たとえば、大学や高専の教員を対象として、製造現場を見学・体感する機会を提供したり、産業界からの講師を派遣したりといった事例があります。
派遣の活用と人材育成
即戦力の確保が難しい現状を考慮して、派遣人材を活用する方法も有効です。派遣を活用して、短期・中期的な人員の確保に努めつつ、社内の育成体制の構築を進めるのです。さらに、派遣人材を単純な「穴埋め」と捉えずに、人材の再配置として計画的な運用ができるとよいでしょう。
一方で、専門知識や技術が求められる半導体製造業務に対して、事前に十分な研修などが実施されていない経験の乏しい人材が派遣されると、トラブルに発展する可能性もあります。専門領域に即した事前研修が充実している派遣サービスを選ぶのが望ましいでしょう。
また、人材派遣に限らず、業務請負を活用するという方法もあります。生産管理や保全、フィールドエンジニア、オペレーターなど、半導体製造においてアウトソースが可能な職種は多岐にわたります。
人材と業務の最適化を行うには、全社を俯瞰しつつ仕組みから改善していく必要があります。自社にノウハウがない場合は、ソリューション型の人材派遣会社といった人材活用のプロに相談するのも一つの手です。
半導体業界の今後や半導体メーカーに求められる人材施策に関して詳しく解説した資料があります。気になる方はぜひチェックしてみてください。
お役立ち資料はこちら
【参考】「九州半導体人材育成等コンソーシアム 人材育成ワーキンググループ」(2022年度活動報告)
半導体業界における派遣人材の獲得・定着のポイント
派遣スタッフは非正規雇用ではありますが、人材が定着しなければ余計なコストがかかってしまいます。半導体業界が人材派遣を活用するにあたり、定着のために講じるべき施策としては次の3つが挙げられます。
- スキルミスマッチの回避
- 業務オペレーションの整備
- スキルアップ支援
詳しく解説していきます。
スキルミスマッチの回避
派遣会社が派遣スタッフに伝えていた業務内容と、現場で実際に担う業務内容が異なっていた場合、想像していた業務とは違うことを理由に該当のスタッフが短期間で離職してしまうことがあります。また、派遣サービスを利用する企業側から見ても、必要な知識や技術を持たないスタッフを派遣されてしまうと、業務の進行に支障をきたす恐れがあります。
スキルのミスマッチを防ぐためには、担当業務の内容や必要なスキルセットを明確にし、派遣会社に示すことが大切です。
業務オペレーションの整備
ベテランの従業員が習慣的に行っている業務など、属人化されている業務を派遣スタッフに任せることは、業務の理解が難しく、離職の原因になります。派遣スタッフに依頼する業務については作業手順を明確に示した作業指示書やマニュアルを用意するなど、現場レベルでのナレッジマネジメントや業務オペレーションの整備が大切です。
ナレッジマネジメントとは、経験やコツ、ノウハウなどを可視化して社内で共有し、生産性を向上させる経営手法です。そもそも現場には、熟練技術者の経験やノウハウといった暗黙知と、マニュアル化された形式知が存在します。ナレッジマネジメントでは暗黙知をいかに体得するか、あるいは可視化できるかが重要です。
実践する際のフレームワークとしては「SECIモデル」が挙げられます。SECIモデルは以下の四つのフェーズから構成されます。
- 共同化プロセス(Socialization)
- 表出化プロセス(Externalization)
- 連結化プロセス(Combination)
- 内面化プロセス(Internalization)
共同化プロセスは、OJT教育などで暗黙知を暗黙知のまま個人に継承するフェーズです。表出化プロセスでは、マニュアルを作成するなどして、共同化プロセスで共有した暗黙知を形式知化します。
連結化プロセスは、形式知をほかの形式知と組み合わせて業務効率化を図るフェーズです。そして内面化プロセスは、新たに得た形式知を個人の経験に落とし込んでいくことで、暗黙知へと変換するフェーズです。
このように、SECIモデルでは暗黙知を形式知にし、新たな形式知を再び暗黙知にするといったサイクルを回していきます。
スキルアップ支援
製造業における人材育成は、コストや時間がかかる難題です。そこで、事前研修が充実しているなど、スキルアップ支援に力を入れている派遣サービスを利用するのが得策でしょう。派遣先、派遣社員の定着率向上につながるためです。
たとえば製造エンジニアとして就業した場合、本人の適性に応じて工程リーダーや工程管理者といった生産管理系の仕事を覚えてスキルアップするプランがあります。または、保全エンジニアにステップアップするプランなどもあるでしょう。このように、派遣社員にさまざまなキャリアを提供している派遣会社を活用するのも定着率アップのポイントです。
半導体業界の人材不足は派遣活用で軽減を
これまでに解説したように、半導体市場は今後も順調に拡大する見込みである一方、半導体業界には人材不足という課題があります。即戦力となる人材をなかなか採用できず、定着もしにくいといった現実があるためです。半導体関連企業としては、人材育成の体制を整備するとともに、派遣人材を活用して人員を確保する必要があります。
「日研トータルソーシング」では、人材不足に悩んでいる半導体製造企業様の人材活用をトータルでサポートしています。研修施設であるテクノセンターを全国に設置し、専門技術を有する人材の育成に注力しているため、即戦力となる人材とマッチングが可能です。
半導体製造の職種であれば、ウェハー加工前工程・ウェハー加工後工程、インゴット引き上げ、スライス、鏡面研磨といった、シリコンウェハー製造などの分野に対応した人材を派遣した実績があります。資格取得や技術職へのキャリアアップ支援など、派遣社員の定着率を高めるサポートを行っているのも特徴です。
半導体業界にマッチする実務経験者、あるいは基礎研修や実務研修を積んだスタッフを派遣し、業界を悩ませる人材不足の解決をサポートすることが可能です。人材リソースを確保したい企業の担当者の方は一度ご相談ください。
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