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設備保全の見える化とは、設備の状態を一目で把握できるようにした仕組みのことです。保全業務には従来から、人手不足や保守メンテナンスにかかるコスト、知識・ノウハウ不足といった課題が山積していました。
これらの課題を解決する手段として、設備保全の見える化が注目されています。さらに、見える化は保全業務の改善だけでなく、生産全体の最適化にもつながるほど重要なものです。
本記事では、見える化とはどのような手法なのか、見える化で得られるメリットなどを解説します。また、実施するうえで注意すべきポイントも紹介します。
この記事でわかること
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設備保全の役割は、設備機器の故障を未然に防ぎ、長寿命化を目指すことです。しかし、従来の保全業務は作業者の経験と勘に頼る部分が多く、異常を早期発見することは簡単ではありませんでした。このような課題を解決する手段が設備保全の「見える化」です。
見える化とは、「目で見る管理」に由来する言葉であり、一見するとわかりづらい設備や部品の劣化状態を客観的に認識できるようにする取り組みを指します。設備保全の見える化として代表的なのは「予知保全」と呼ばれる手法でしょう。
そもそも設備保全には「事後保全」「予防保全」「予知保全」の3種類があります。事後保全は生産設備に故障が発生してから部品交換などの修理を行う手法であり、予防保全は定期的な点検を行うことで故障を未然に防ぐ手法です。
事後保全ではそもそも故障後に修理を行うため言わずもがなですが、予防保全を行っていたとしても、設備の負荷状況によっては定期点検のタイミングの前に設備が故障するリスクがあります。
一方の予知保全は、設備の状態を常に監視し、故障の予兆を察知する手法です。たとえば、設備の状態を示す要素として、振動や音、温度などが挙げられます。予知保全においては、設備に取り付けたセンサーによってこれらの要素を計測し、正常とは異なる振動や音などを数値化します。人間は、各種センサーによって収集したデータから、正常か異常かの判断を客観的に行えばよいのです。
設備保全の見える化を実現できれば、保全管理の最適化だけでなく、工場の生産性にまで効果が波及します。ここでは見える化のメリットを整理していきましょう。
従来の保全業務は作業者の感覚や経験に頼る部分が多かったため、不具合が見過ごされることもあり、突発的な故障をすべて防ぐのは困難でした。一方で、設備保全を見える化すれば、設備の不具合や故障などの問題を早い段階で見つけられます。その結果、大規模な生産停止を防げるほか、チョコ停も減るため、設備の稼働率を上げることができるのです。
稼働率とは「操業時間に対してどれだけ設備が動いているか」を表す指標です。稼働率が高ければ高いほど、機械設備が効率的に動いていることになります。稼働率が高ければ目標の生産数を達成しやすくなり、生産性の向上にもつながるでしょう。
適切なタイミングで必要な保全作業を実施できる予知保全なら、保守メンテナンスにかかるコストを最適化することができます。たとえば、予防保全は時間を基準に部品交換のタイミングを決めるため、まだ使える部品だったとしても交換する可能性があります。
これに対し、予知保全は時間基準ではなく、一つひとつの部品の状態を基準として保全計画を立案します。そのため、余計な修繕をしなくて済み、必要な設備に必要なメンテナンスだけを施すことができます。
見える化の代表は予知保全ですが、デジタル化をしなくても見える化を実現する方法もあります。たとえば、Vベルトの緩みに合わせて上下するような検知棒を取り付ければ、わざわざ保護カバーを外すことなく一目でVベルトの緩みをチェックできます。これを「からくり改善」と呼びますが、このような見える化でも点検時間を削減でき、コスト削減につなげられます。
製造設備を新しく購入する場合、多大なコストがかかることが一般的です。そのため、中小企業の中には、数十年前に導入した製造設備を使い続けているところもあります。製造設備を長期間にわたって使い続けるためには、適切な保守メンテナンスを施すことが重要です。
この観点から言えば、設備保全の見える化で故障を事前に予知できれば、設備の長寿命化を図れます。また、設備の長寿命化には、日常の設備管理において設備の状態を正確に把握する必要があるため、リアルタイムに状態を監視する予知保全は最適だといえます。
設備保全を適切に行うと保全活動のコスト削減や効率化を実現できるだけでなく、製品の品質が安定するというメリットもあります。たとえばマシニングセンタや旋盤などの工作機械を用いる加工では精度の高さが求められます。リニアガイドやベアリングといった部品にガタが生じれば、規格どおりの精度にならず、品質不良につながってしまうでしょう。
そこで、設備保全の見える化をして部品の寿命を予知することができるようにすれば、適切なタイミングで部品交換や修繕を行えます。求められる規格どおりの加工精度を追求することができ、不良品が出にくくなるでしょう。
ここまで説明したように、設備保全の見える化にはさまざまなメリットがある一方で、導入には高いハードルがあることも否めません。
見える化を実施するためには、一般的に設備のIoT化やAIの導入といったDXを行う必要があり、コストがかかる点には注意しなければなりません。見える化のために必要な設備の例としては以下のようなものが挙げられます。
・センサー 設備の状態を監視するために必要です。温度センサーや加速度センサー、光電センサーなどを設備に取り付け、リアルタイムでデータを取得します。どのようなセンサーを使用するかは対象となる設備や取得したいデータの種類によって異なります。
・データ収集・分析システム データ収集や収集したデータを分析するシステムも必要です。さまざまなデバイスから収集したデータにアクセスできるようにすると、見える化を実現しやすくなります。
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ただし、これらのシステムを導入しようにも、古い設備の場合は費用的にも難しいケースが多いのも事実です。
また、設備保全担当者の知識やスキルなどノウハウが不足している場合、見える化をしていても十分に活用できていない場合があります。たとえば、センサーからデータを取得しても、データ解析の知識がないと正常か異常かの判断ができません。
設備保全の見える化とは、予知保全に代表されるように、設備の故障やトラブルの予兆を事前に察知する仕組みのことです。実現できれば「設備の稼働率向上」「保全コストの最適化」「設備の長寿命化」「品質の安定」などのメリットがあります。
ただし、見える化を実施するためにはIoTやAI、センサーなどを導入する必要があります。また、データ分析や修繕を行うには保全業務に精通した人材が不可欠です。しかし、人材の採用や育成が上手くいかない企業も多いのではないでしょうか。
日研トータルソーシングでは専門性の高い実技・実習を行うことで、保全業務の知識やノウハウを身に付けた人材を育成しています。保全業務に課題を抱える企業の担当者様は、以下の資料をご覧ください。