予知保全とは?予防保全との違いや導入におけるメリット・デメリット
製造業では、工場のDX化が進むとともに、設備保全の新たな手法である「予知保全」が注目されています。予知保全を実現できれば予想外の故障に見舞われることを防げるため、生産性向上や品質の安定化など、さまざまなメリットを得ることができます。
ただし、予知保全を導入するには、正しい知識だけでなく、どのような手順を踏めばよいかも理解する必要があります。
本記事では予知保全の概要やメリット・デメリット、導入から運用までのステップについて解説します。
この記事でわかること
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目次
工場における設備保全手法の一つ「予知保全」
設備保全には、故障が発生したら修理する「事後保全」、一定の間隔でメンテナンスを行う「予防保全」、故障の兆候が見られた際にメンテナンスを行う「予知保全」の3種類があります。ここでは、設備管理の課題を解決する予知保全の概要について説明します。
予知保全とは
予知保全(Predictive Maintenance)とは、機器や生産設備の故障を未然に防ぐことを目的とした保全方法です。センサーやIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)を活用して異常の兆候を早期に検知し、必要なメンテナンスを行うことで、保全コストの低減や稼働率の上昇、生産性向上を目指します。
機械の劣化状態や異常を検出するために行うのが、生産設備のモニタリングです。具体的には、振動や温度、音などをセンサーによって取得・分析することで、故障の予兆を察知します。近年はIoTの進歩によってデータ収集が容易になったほか、取得したデータをAIで分析して故障予測を行うソリューションも登場したために予知保全が注目されています。
予防保全との違い
設備保全には、従来から予防保全という考え方もあります。予防保全は、故障が発生しないよう、定期的に点検や部品交換を行う手法です。予知保全は機械の劣化状態を基準に保全を行うのに対し、予防保全は時間基準で保全を行います。
具体的には、予防保全においては、機械の耐用年数や過去のデータから逆算して保全計画を立てているため、定期的にメンテナンスの時期がやってきます。一方の予知保全は、故障の兆候が出たタイミングでメンテナンスを行います。一つひとつの機械の劣化状態を診断しながら、状況に応じてメンテナンスを行うという点が予知保全と予防保全の違いです。
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予知保全 |
予防保全 |
メンテナンスのタイミング |
故障の予兆が出たとき |
保全計画に沿ったタイミング |
メンテナンスの基準 |
劣化状況 |
時間経過 |
メンテナンスサイクル |
不定期 |
定期 |
予知保全のメリット・デメリット
予防保全や事後保全にはない、予知保全のメリットとは何でしょうか。ここでは予知保全のメリット・デメリットを解説します。
メリット
・ダウンタイムが生じるリスクを減らせる
予知保全では、設備の稼働状況や劣化状態をリアルタイムで監視し、データに異常な傾向が検出された時点でメンテナンスを行います。一方の予防保全では、機械の負荷が予想以上に高ければ、定期メンテナンスの前に故障が発生してしまいます。また、事後保全は故障発生後に保全を行うため、ダウンタイムが確実に発生します。
これらのことからわかるように、故障の兆候がある時点で前もって保全作業を行う予知保全は、予防保全や事後保全に比べて、大規模なダウンタイムが発生する可能性を減らせるのです。故障頻度が低くなれば、通期で見た場合の生産性向上にもつながります。
・品質の安定化を図れる
マシニングセンタのような加工機械の場合、リニアガイドなどの部品にガタつきが発生すると、製品の精度不良の原因になります。このような異常の兆候に気付かずに稼働しつづけると、機器や設備の不具合に発展し、最終的には不良品を製造してしまいます。
そこで予知保全を導入すると、機器や設備の異常の兆候を早期に発見でき、重大化する前に部品交換などの対策を施すことができます。適したタイミングでメンテナンスを実施できるため、不良品の発生数を軽減しつつ、調整作業や管理工数の削減も期待できます。
デメリット
・計測機器の導入コストが発生する
予知保全を実現するには、機器や設備を監視するためのセンサーやIoT、AI分析システムなどを導入するコストがかかります。
導入には相応のコストが発生します。
・保全の実行には専門知識が必要になる
予知保全を行うためには、データ分析やシステム運用などの専門的な知識が求められます。たとえば、データ解析技術には複数の種類があるため、どのデータに対してどの解析技術を適用すべきかを判断しなければなりません。また、正常と異常を判別するしきい値を適切に設定し、保全するか否かを判断するスキルも必要です。社内での対応が難しい場合は、人材を外部から招く必要があるでしょう。
予知保全を自社に導入する際の流れ
予知保全を導入する場合、センサーやIoT、AI といった技術を駆使しながらシステムを構築していきます。その際、まずはデータを集め、正常か異常かを判断できる基準をつくらなくてはなりません。
以下は導入までの大まかなステップです。
Step1.必要なデータの収集 まずは故障パターンを学習するためのデータを収集します。センサーを設置し、稼働データや温度、振動、音などのデータを収集します。この際、設備や検知したい故障によって収集項目や方法が変わります。たとえば、ベアリングの摩耗を長期的な視点で検出したい場合、加速度センサーから振動データを収集する方法が考えられます。
Step2.分析と故障予測 収集データから、機械学習やディープラーニングを含むAI技術を活用して異常パターンを学習します。故障予測のモデルを作成するにあたっては、自社で専用のモデルを作成するか、汎用モデルを活用して作成するかの2つの選択肢があります。一般的に専用モデルのほうが精度は高くなりますが、その分モデル作成に時間がかかるため、求める精度や設備に合わせて手法を考えましょう。
Step3.予知保全のオペレーションの構築 判明した異常パターンに合わせてアラートが通知されるように設定します。リアルタイムで異常を監視・管理できるシステムを構築できれば、故障の危険度が高い設備に対して修理に向けた保全計画を立てることができます。
Step4.従業員への教育 予知保全システムの運用に必要な知識を従業員にレクチャーします。データがどのように推移しているかを確認し、具体的な故障を把握できるようにする必要があります。
Step5.運用と継続的な改善 システムは一度構築すればそれで終わりではありません。運用の状況を定期的に評価し、課題点の改善を図りましょう。より精度の高い予知保全システムになるよう、継続的な改善を行うことがポイントです。
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予知保全を実現するには
予知保全は一つひとつの設備や部品の劣化状態を把握し、故障する前に対応する手法です。突発的なトラブルを防げるため、設備不良によるダウンタイムや品質不良をなくすことができます。
予知保全を導入するには、センサーやIoT、AIといった設備が必要不可欠です。また、故障を予測できても実際の修理作業は人の手に頼らざるを得ないため、予知保全においては設備保全を熟知した人材も欠かせません。
日研トータルソーシングは研修に力を入れており、設備保全に精通した人材を紹介することができます。保全活動に力を入れたい企業様は以下の資料をご覧ください。
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