派遣社員への教育を派遣先が行う必要があるって本当?背景や注意点
2020年4月に施行された改正労働者派遣法によって、の教育訓練の実施がの双方に義務化されました。しかし、派遣社員の直接の雇用主ではなく、派遣サービスを利用する側である“派遣先企業”の立場では、どの程度まで指導すべきかわからないケースもあるでしょう。
そこで本記事では、派遣先企業が派遣社員に対して教育訓練を実施する目的や実施すべき教育訓練などを詳しく解説します。企業経営や人事関連の業務に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
派遣先企業は派遣社員に教育訓練を行う義務がある!
労働者派遣法とは、人材派遣会社に労働者派遣事業を適切に運営させること、そして派遣労働者たちを保護することを目的に制定された法律です。正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といいます。
厚生労働省は、派遣社員の待遇改善や派遣先企業の責任を強めることを目的として、これまでに教育訓練に関する法改正を重ねてきました。ここ十年弱で実施された労働者派遣法の改正によって、派遣社員に対する教育訓練の規則は次のように変化しました。
改正年月 |
改正内容 |
2015年9月 |
派遣元企業による派遣社員に対する教育訓練の実施が義務化 |
2020年4月 |
派遣先企業にも派遣社員に対する教育訓練の実施が義務化 |
2015年の法改正では、派遣元企業のみが義務化の対象であり、派遣先企業は「配慮義務」に留まっていました。その後、「平成29年派遣労働者実態調査」で約4割の派遣先企業が派遣社員に対して教育訓練を実施していないことが明らかになったことを受け、2020年4月の法改正で派遣先企業に対しても「配慮義務」から「義務」に変更されたのです。
このような流れで、派遣先企業も派遣社員に対してキャリア形成の支援を行うことが労働者派遣法で定められました。
派遣先企業は派遣社員に対する指揮命令権を持つため、業務指示はもちろん、業務スキルを高めるための教育を実施することが認められています。ただし、残業や契約範囲外の業務を依頼するなどの行為は禁止されているため、注意が必要です。
【参考】「平成27年労働者派遣法の改正について」(厚生労働省)
【参考】「平成29年派遣労働者実態調査の概況」(厚生労働省)
派遣先企業が派遣社員に教育訓練を行う意義
派遣先企業が、派遣社員の教育訓練を実施する意義には、次の2つがあります。
- 派遣社員のスキル・キャリアの向上
- 格差解消とモチベーションの向上
それぞれの具体的な内容を詳しく解説しましょう。
派遣社員のスキル・キャリアの向上
1つ目の目的は、派遣社員の雇用の安定やスキル・キャリアアップを図ることです。派遣先企業に対して派遣社員の教育訓練を義務化することで、派遣社員に対しても派遣先企業の正社員と同じように学ぶ機会が与えられます。派遣社員の中には、「正社員として働きたい」「キャリアアップしたい」と望んでいる人も少なくありません。段階的で体系的な教育訓練が実施されることで派遣社員のスキルが向上し、雇用の安定やキャリアアップにつながると考えられているのです。
格差解消とモチベーションの向上
2020年の法改正では、派遣先企業は自社の正社員と派遣社員の間の待遇格差を是正することも義務付けられました。これに伴い、給与や福利厚生などの待遇改善の見直しが検討され、その中には教育研修も含まれていたのです。
派遣社員への教育訓練は、自社の正社員と同様の内容である必要があります。派遣社員向けに別途教育訓練を設けるわけではありません。
これまで派遣社員は、正社員に比べてキャリア形成しづらいとされていました。正社員と同等の教育を受けられることで、スキルアップの機会にも恵まれるでしょう。また、自身にスキルが身に付くことでモチベーションアップや職場への定着も期待されています。
派遣先企業が派遣社員に行うべき教育訓練とは?
派遣先会社が、派遣社員に実施すべき教育訓練は、大きく分けて次の2つです。
- 業務に関する教育訓練
- キャリア・スキルアップのための教育訓練
それぞれの内容を詳しく紹介しましょう。
業務に関する教育訓練
派遣社員に対する教育訓練の実施は、派遣元企業と派遣先企業のどちらにも課せられている義務です。ただし、派遣先企業の業務に関連する教育訓練は、派遣先企業で実施すべきと考えられています。派遣社員がスムーズに業務に取り組めるように、入職時をはじめ、入職後も適宜教育訓練を実施するよう求められているのです。
業務に関連する教育訓練とは、社会人としてのビジネスマナー講座はもちろん、業務を遂行するために必要なスキルの研修や勉強会など多岐にわたります。
キャリア・スキルアップのための教育訓練
派遣先企業は、派遣社員のキャリアアップに向けた教育訓練として、定期的に研修会やOJTなどの機会を設けなければなりません。
厚生労働省の「派遣元が講ずべき措置に関する指針」によると、派遣先企業は派遣社員が教育訓練を受けられるよう可能な限り協力するほか、必要に応じた教育訓練を実施するための努力義務が課せられています。
労働者派遣法では、キャリアアップやスキルアップを目的とした教育訓練の要件を定めています。以下は派遣元企業が講じるべき具体的な教育訓練の実施内容です。派遣先企業で教育訓練を講じる際の参考にしてください。
- 雇用するすべての派遣社員が教育訓練の対象である
- 派遣社員のキャリアアップに関連する内容である
- 派遣社員として雇用する際に必要な教育訓練が含まれている
- 無期雇用の派遣社員に対しては、長期的なキャリア形成を視野に入れた内容である
また、キャリアアップのための教育訓練の実施時期や頻度、時間数も、労働派遣法に以下のように定められています。
- 入社して3年間は年に1回以上実施する
- フルタイムで週に40時間以上勤務する場合は、毎年8時間以上の研修時間を設ける
時短勤務の派遣社員に対しても、勤務時間数に応じた教育研修の機会を提供しなければなりません。
さらに、派遣社員のキャリアアップのため教育訓練を設ける際は以下の要件も満たしていきましょう。
- 派遣社員の処遇・待遇が改善される
- 派遣社員から社員として登用される
- 業務遂行するための技術的なレベルを上げる
派遣先企業が派遣社員に教育訓練を実施する際の注意点
派遣先企業が、派遣スタッフに教育訓練を実施する際は、次の3つのポイントに注意しましょう。
- 教育訓練の内容は事前に周知する
- 教育訓練にかかる費用は派遣先企業が負担する
- 教育訓練の内容は派遣元企業ときちんと連携する
それぞれの内容を詳しく解説します。
教育訓練の内容は事前に周知する
教育訓練を実施する際は、派遣社員に対して教育訓練の内容や目的、実施方法などを周知しましょう。さらに、周知するだけでなく、事前に教育訓練の実施に対する同意を得なければなりません。
そのため、派遣先企業は、教育訓練計画の作成や必要な教材の用意など、事前の準備が必要です。
教育訓練にかかる費用は派遣先企業が負担する
派遣先企業で実施する教育訓練にかかる費用を派遣元企業や派遣社員に請求することはできません。原則として、教育訓練に必要な費用はすべて派遣先企業が負担します。
また、教育訓練は業務時間中に実施するため有給となります。訓練だからという理由で賃金を減らすということはできません。
教育訓練の内容は派遣元企業ときちんと連携する
教育訓練の実施日時や実施内容などは、派遣元会社に報告しなければなりません。一般的には、派遣先管理台帳に記載します。
派遣先管理台帳とは、派遣社員の派遣状況や労働条件などをまとめた台帳のことです。教育訓練を実施した場合もこの台帳に記録・記載しておくと、派遣元企業にスムーズに報告できるでしょう。
派遣社員の教育訓練を充実させ優秀な人材を育成していこう
2020年の法改正によって、派遣社員を登用する派遣先企業には、派遣社員が業務に携わるために必要な能力を身に付けるための教育訓練の実施が義務付けられました。万が一、実施されない場合には行政処分の対象となる恐れがあるため注意が必要です。
派遣社員に対して教育訓練を実施することで派遣社員のスキルアップ・キャリアアップが期待でき、社内の業務効率向上にもつながるでしょう。
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