【大和ハウス工業が語る未来のカタチ】マルチテナント型物流施設「DPL」とともに目指す、物流業界の進化とは?
EC市場の拡大によって、物流業界の需要も拡大しています。その需要に応えるために、倉庫や物流施設の新規開発も増加。施設を大型化するだけでなく、施設内の省力化や自動化も行うことで、在庫管理や物流の効率化、高度化が図られるようになっています。
そのような物流施設において業界トップクラスの実績を上げているのが、大和ハウス工業です。物流業界の現状と未来に、同社のブランドであるマルチテナント型物流施設「DPL」はどのように寄与していくのか。物流業界の未来に必要な人材とはどんな人材なのか。大和ハウス工業株式会社 建築事業本部 営業統括部 Dプロジェクト推進室 室長 井上一樹氏にお話を伺いました。
取材・文=杉山直隆(オフィス解体新書) 写真/畠中彩
EC市場の拡大に牽引され、物流業界も成長中
運送会社や倉庫会社、物流業務を代行する3PL(サードパーティ・ロジスティクス)など、多様なプレーヤーがひしめく物流業界。近年、市場規模が拡大しています。矢野経済研究所によると、2020年度の物流17業種の市場規模は20兆4,050億円(見込み)。2010年度の18兆4,870億円から着実に伸びており、2022年度には21兆円を突破すると予測されています。
物流業界が成長している大きな要因の1つが、EC市場の拡大です。国土交通省によると、日本の「BtoC EC(消費者向け電子商取引)」の市場規模は、2010年度は7兆7,880億円に過ぎなかったのが、2019年度には19兆3,609億円と膨れ上がっています。コロナ禍によってECの利用が幅広い層に浸透したことから、今後はさらに成長することでしょう。
出典:経済産業省「調査結果概要 国内電子商取引市場規模(BtoC及びBtoB)」
EC事業者やメーカーは、大規模な物流施設を自前で持たず、倉庫会社や不動産デベロッパーなどから借りるのが一般的です。さらに商品管理や発送などの業務に関しては、3PLや情報システムを取り扱う会社、人材派遣会社など、多様な会社に委託しています。
商品の破損や品番間違いなどのミスを起こすことなく、注文翌日には確実に商品を届ける……。ECサイトの当たり前を影で支えるのが、物流業界の役割と言えます。EC事業者からは確実性だけでなく、物流効率の向上やコストダウンなども求められます。その期待に応えるために、さまざまな物流事業者が、サービスの向上やITやロボットなどの技術革新を競い合っているのです。
お客様の要望から生まれた、マルチテナント型物流施設「DPL」
そんな物流業界のプレーヤーとして大きな存在感を放っているのが、大和ハウス工業です。
大和ハウス工業と言えば「住宅メーカー」という印象が強いかもしれませんが、実は1955年の創業当時に手がけていた祖業は「倉庫」。丈夫な倉庫や事務所を早く安く簡単に建てられる、鉄パイプ製の「パイプハウス」を開発し、当時の国鉄や電電公社などに販売および建設していました。
そこから発展して、大規模な倉庫の建設を手がけるようになると、2000年代に入ってからは自ら土地を購入し物流施設を建て、EC事業者やメーカーに貸すというビジネスをスタートさせます。
『1社の企業様だけにお貸しし、そのお客様にとって最適な物流施設を構築する、いわゆるBTS(ビルド・トゥ・スーツ)型というビジネスモデルです。これらのプロジェクトを、「D(ダイワハウス)プロジェクト」と名付けて事業展開を全国で展開いたしました』
と説明するのは、建築事業本部 営業統括部 Dプロジェクト推進室 室長の井上一樹氏。
この「Dプロジェクト」の新ブランドとして、2013年に立ち上げられたのが、「DPL(ディープロジェクト・ロジスティクス)」です。
地上5階建て、延床面積322,226.33㎡の広さを誇る、大和ハウス工業最大のマルチテナント型物流施設「DPL流山Ⅳ」(2021年10月竣工予定)
「DPL」は、1社専有ではなく複数のテナントが入る「マルチテナント型」の物流施設。2021年6月現在、北海道から沖縄まで、全国に70棟(施工中含む)あります。施設によっては、敷地面積が東京ドーム1個分の5万㎡を超えることも珍しくなく、「DPL流山Ⅳ」に至っては、敷地面積約13万5,000㎡、延床面積では約32万2,000㎡という国内最大級の大きさを誇ります。
『従来のBTS型では、お客様とじっくり打ち合わせを重ね、ニーズに合った施設を数年かけて開発していました。ところが、近年、日本に進出してきたEC事業者様は、『神奈川で延床面積1万坪の倉庫を求めている。明日から使いたい』というほど事業のスピードが速い。そうしたお客様の要望に応えるには、前もって物流の適地に物流施設をつくっておくしかありません。
また、東日本大震災直後、物流施設が被災した複数のお客様から『すぐに入居可能な施設はないか』と問い合わせを受けたことも、「DPL」立ち上げの契機となりました』(井上氏)
作業効率の良い物流拠点を構築できる環境が整っていることも、「DPL」が持つ、強みのひとつ。
『弊社には、長年、BTS型で培った施設建設のノウハウがあります。マルチテナント型物流施設も開発でき、自社で設計から施工まで関われるのは、お客様にとって理想の施設をつくる上で大きな強みになっています』(井上氏)
さらに自然災害や大火災などにあった時でもすぐに復旧ができる「BCP」(事業継続計画)の面でも、「DPL」は万全の体制を整えています。
『一定規模の建物主要構造部(躯体)に鉄筋コンクリートよりも強度の高いPC造(プレストレスト・コンクリート)を採用しており、免震構造も積極的に採用しております。また、出資しているエリーパワーの非常用大型蓄電池が標準装備されているので、停電時でもスマートフォンの充電や照明など最低限の電気が使えますし(ブラックアウトの回避)、施設によっては非常用発電機も備え付けられています。
このように災害に強い施設であることから、現在では静岡県富士市や佐賀県鳥栖市など、「DPL」がある地域の自治体と防災協定を結んでいます。すでに防災拠点として機能していて、2019年に東京・多摩川で洪水が起きたときには『DPL国立府中』が人や車の緊急退避場所として近隣の皆様のお役に立つことができました』(井上氏)
「DPL流山I」内にある、ママスクエアが運営する保育施設「ながれやま保育園」。
また、保育施設やカフェテリアなどを備えていることも特長です。保育施設に関しては全国59拠点を持つママスクエアと提携し、現在、2箇所の「DPL」で稼働しており、今後数十カ所での稼働を予定しています。
『千葉県流山市の『DPL流山Ⅰ』にて「DPL」で初めて保育施設を設けたところ、定員の40名がすぐに埋まりました。企業様の採用担当の方や現場の方からも『もっと保育施設をつくってほしい』という声をいただいています。保育施設を備えることで、地域の子育て中の方が働けるようになり、新たな雇用を生む効果があると実感しています』(井上氏)
DXによって生まれる、次世代型の物流施設とは?
今後、物流業界はどのような進化を遂げていくのでしょうか。井上氏は「DX(デジタルトランスフォーメーション)によって、物流業務の大幅な効率化や省力化、自動化が進んでいくことは間違いない」と言います。
『2021年6月に、国が閣議決定した『総合物流施策大綱』でも、今後の物流が目指す方向性として、『物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化』が挙げられていたように、「DPL」でも「物流DX」『次世代型の物流施設』をお客様にご提案して参ります』(井上氏)
大和ハウス工業が描いている「次世代型の物流施設」とは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボティクスなどを駆使して、業務の効率化・省人化・自動化を実現する物流施設の姿。
『たとえば、施設全体の在庫の動きをシステムで管理することで、モノの流れや人の動きを見える化。そのデータを分析することで、最も効率の良い物流の仕組みを構築。倉庫内の商品を搬送するマテリアルハンドリング機器にロボットを活用することで、省人化・自動化を実現します』(井上氏)
こうした物流施設を構築するために、同社では、2017年に、物流IT企業の持ち株会社であるダイワロジテックの立ち上げを皮切りに、必要なDX技術を持つ複数の会社を子会社化、もしくは出資して傘下に集結。次世代型物流施設管理システムのフレームワークス、バックヤード業務をワンストップで提供するアッカ・インターナショナル、倉庫内の自動搬送ロボットシステムを手がけるグラウンドなどは、その一例だと言います。
Intelligent Logistics Center PROTOの内観(2018年5月撮影)
また、2016年に竣工した千葉県市川市の「DPL市川」に、研究・実証拠点として「Intelligent Logistics Center PROTO」(インテリジェント・ロジスティクス・センター・プロト)を開設。
『物流の現場はまだまだスキルを持った人(センター長、職長)に頼っていることが多いのですが、すべてを人に依存していては、持続性の面で大きなリスクを抱えることになります。人に頼る体制から脱却するためには、アナログの部分をデジタルに変換していくことが重要です。私たちだけで考えるのではなくて、メーカー様、小売業者様や物流会社様などと組んで、最適なシステムを作り込んで、物量業界をさらに盛り上げていきたいと考えています』(井上氏)
DX化が進むほど「人」が重要になる
物流DXによって物流施設の省力化や自動化が進めば、いずれ施設に「人」は必要なくなるのではないか、と思えます。
しかし、「たとえDX化や自動化が進んだとしても、物流施設において、人は必要であり続ける」と井上氏は言います。
その理由として挙げたのが、「コスト」の問題です。
『DX化、とくにロボットの活用には非常にコストがかかります。ロボットを導入したら終わりではなく、そのロボットをメンテナンスしたり、ソフトウェアをリニューアルしたり、といったフォローが欠かせません。
仮にロボットを使って隅々まで無人化した場合、アメリカや中国のように、物流施設の需要が多く、広い土地が安く手に入るのであればコストに合いますが、日本のように高い物流品質(お客様への配送:ラストワンマイル)が求められる場合は合理的でないと考えております。
そのように考えると、日本においては、物流施設がすべて自動化することはありえないと私は予測します。今後も、物流施設では人が必要であり続けることは間違いないでしょう』(井上氏)
ただし、「現在、人が行なっている作業がそのまま残るとは思わない。人が果たす役割は高度になっていく」と、井上氏は続けます。
『荷物を持って施設の中を走り回るというようなアナログな作業をすることは大幅に減りますが、ロボットに指令をするコマンドの業務には人の力が必要です。また、どんなに自動化が進んでも、マテリアルハンドリング機器のメンテナンスは、人でなければできません。現在は、マテハン機器のメンテナンスは機器メーカーのスタッフが行なうことが多いのですが、マテハン機器の数が増えてくれば、外部の会社に委託して施設内に常駐することも当然出てくるでしょう』(井上氏)
人間に求められる業務が高度になれば、当然、社員教育が重要になってきます。
『2019年に冷凍輸送に強いと評価の高い金沢の若松梱包運輸が、大和ハウスグループに入りわかったのは、社員教育にヒト・モノ・カネをかけていることです。省力化や自動化を実現するには、DXやロボットを導入するだけではなく、『人』が鍵になることを改めて実感しました。DX化が進めば進むほど、社員教育の重要性に気づく企業が増えるのではないでしょうか』(井上氏)
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