派遣管理とは?派遣先企業で必要な対応や業務の問題点、改善策
製造業に限らず、幅広い業界において人材不足が叫ばれているなか、「派遣スタッフ」を活用する企業が増えています。
「労働者派遣法」が制定された1986年当時、派遣スタッフは、専門性を持った人材のみを対象とした法律でした。しかし、1999年の法改正によって派遣業務が原則自由化され、派遣対象業種が原則自由となったことを受け、「派遣=スキルや知識がなくても働ける雇用形態」というイメージが世の中に定着してしまいました。
しかし、最近では、専門的な知識やスキルを持ち合わせた派遣スタッフも増えてきており、現場の即戦力となり得る存在として注目されているのです。
そこで本記事では、派遣先企業が派遣スタッフを受け入れる際に重要な「派遣管理」について詳しく解説します。派遣先企業が管理すべき項目や、管理者、派遣先台帳に関する内容も紹介するため、人材不足に悩んでいる製造業の人事担当者の方はぜひ参考にしてください。
派遣先企業で必要な「派遣管理」とは?
人材派遣は、派遣元企業と派遣社員、そして派遣先企業の三者間で行われる働き方の仕組みです。
派遣スタッフの雇用主は派遣元企業であり、派遣元企業は派遣スタッフと「雇用契約」を締結します。そのため、給与の計算や支払いといった給与管理や、福利厚生の提供などを行うのは派遣元企業です。
一方の派遣先企業は派遣元企業と「派遣契約」を締結し、派遣スタッフに対して、業務を遂行するための指揮や命令を行います。
派遣スタッフの給与や社会保障などの基本的な労務管理は派遣元企業が行うものの、勤怠や実施した業務などの記録・管理は派遣先企業も行わなければなりません。これは、労働者派遣法において派遣先企業は「派遣スタッフの管理責任者を配置し、派遣先管理台帳を作成すること」が義務付けられているためです。
厚生労働省が発表した「派遣先が講ずべき措置に関する指針」には、労働者派遣契約の締結にあたっての就業条件の確認や、労働者派遣契約に定める就業条件の確保など、17にも及ぶ指針が定められています。
派遣スタッフの労働状況を正しく管理するためにも、派遣先企業による派遣管理の徹底が求められているのです。
派遣先企業が管理すべき項目
派遣スタッフの管理は、派遣元企業と派遣先企業が分担して責任を負います。ここでは、派遣先企業が派遣管理を行う際に、特に重要とされる5つの項目を解説していきます。
勤怠管理
派遣スタッフの出退勤や欠勤状況の管理は、派遣先企業の役割の一つです。勤務時間や休憩時間のような労働時間の管理だけでなく、有給休暇の消化の管理も担います。
派遣先企業は、就業している派遣スタッフの始業・終業時刻や休憩時間などの労働時間について、月に一度派遣元企業に通達しなければなりません。
派遣会社に提出する書類は多岐にわたるだけでなく、派遣社員の人数分の書類対応が求められるため、正規雇用の従業員に比べて管理が煩雑になりやすいです。勤務実態を把握できているか、虚偽の申告がないかなども確認する必要があります。
契約・抵触日に関する管理
派遣スタッフの契約内容はそれぞれ異なるケースが多く、派遣可能期日や抵触日が人によって変わることがあります。
2015年9月30日に施行された「改正労働者派遣法」では、派遣可能期間について最長3年までと定められました。
期日が近づけば、契約更新や後任の選定といった対応が必要になるため、各人の契約内容・抵触日に関する管理は徹底する必要があります。
業務指導・指示管理
派遣スタッフが業務に従事する際に具体的な業務内容を指導・指示することも、派遣先企業の役割の一つです。就業前に研修を実施したり、業務内容や業務フローをまとめたマニュアルを用意したりして、派遣スタッフがスムーズに業務に携われるような体制を整える必要があります。
また、派遣スタッフが派遣契約に定められていない業務に携わることは法律で禁止されています。そのため、契約内容以外の業務を行っていないかもチェックしなければなりません。
安全・健康・衛生の管理
派遣元企業と派遣先企業双方に、派遣スタッフが就業する際の安全管理や衛生管理について、大きな責任が課せられています。
派遣先企業は、派遣スタッフが安全に業務を行えているか、休憩や休日を適切に取得できているか、さらには勤務先の労働環境が衛生的であるかなどを確認しなければなりません。
災害時の避難経路や安否確認の方法についても、自社で直接雇用する従業員と同様に管理していきましょう。
ハラスメント・苦情対応
派遣先企業は自社の従業員と同様に、派遣スタッフに対しても、職場におけるハラスメント行為を防止することが義務付けられています。
派遣スタッフを受け入れるにあたって苦情や相談のための窓口を設置し、気軽に活用できる環境整備に努めなければなりません。さらに、ハラスメントや苦情の申し出、相談などがあった際は、迅速に対応するよう求められているのです。
派遣管理のため派遣先企業内に設置するべき管理者
派遣先企業は、派遣スタッフの勤怠状況を管理するために、次のような管理者を選任する必要があります。
- 派遣先責任者
- 指揮命令者
- 苦情処理担当者
それぞれの管理者について詳しく解説しましょう。
「派遣先責任者」と対をなす、「派遣元責任者」について気になる方は以下の記事をご覧ください。
労働者派遣法では、労働者派遣事業者に対して、登録者の雇用管理や保護を担う専任の「派遣元責任者」を選任することが義務付けられています。
派遣先責任者
派遣先責任者とは、派遣スタッフの適切な就業状況を確保するための責任者です。派遣先責任者は、次のような業務を担当します。
- 派遣元企業とのさまざまな調整
- 契約や抵触日の把握・管理
- 派遣スタッフに対する安全衛生教育や健康管理
- 派遣先管理台帳の作成・通知・管理
派遣先責任者は、労働基準法や労働者派遣法などの規定に従って派遣契約の内容を、派遣スタッフが所属する部署の責任者や一緒に働く同僚に対して、周知しなければなりません。労働関連法令に関する知識があり、なおかつ人事や労務管理の経験者が適切といえるでしょう。また、派遣先責任者は、派遣スタッフ100名につき1名を選任しなければなりません。
指揮命令者
指揮命令者は、派遣スタッフに業務指示を行う役割を担います。派遣スタッフの直属の上司的な存在として、具体的には次のような業務を担当します。
- 契約内容に基づいた業務指示
- 派遣契約に則しているかの確認
- 勤怠管理
- 派遣先責任者との情報共有
派遣スタッフと同一部署に所属しており、業務内容を理解・指示できる従業員が適任といえるでしょう。また、派遣先責任者と兼任することも可能なほか、いつでも連絡が取れる場合には派遣スタッフと同一の就業場所でなくても問題ありません。
苦情処理担当者
苦情処理担当者とは、派遣スタッフから就業に関する苦情を受け付ける役割のことです。
派遣スタッフから苦情やハラスメント行為に関する報告を受けた際は、速やかに派遣元企業に連絡し、問題の解決に努めます。苦情処理担当者は、人事や労務管理についての有識者が望ましいでしょう。派遣先責任者と指揮命令者は派遣先企業の従業員でなければならないものの、苦情処理担当者は弁護士などの第三者であっても問題ありません。
派遣管理にあたって必要な「派遣先管理台帳」
派遣管理に必要な「派遣先管理台帳」とは、派遣スタッフの就業日や就業時間など、就労実態を記載する台帳のことです。派遣スタッフを就業させる企業には、この派遣先管理台帳の作成・管理義務が課されています。
派遣先管理台帳は派遣スタッフごとに作成します。派遣スタッフの氏名や派遣元企業の情報、業務内容などを記載し、日々記録しなければなりません。
*派遣先管理台帳に記載する必要事項
・派遣労働者の氏名 ・派遣元事業主の名称、事業所名、所在地 ・派遣元責任者名、派遣先責任者名 ・労使協定派遣社員であるか否か ・「無期雇用派遣社員」か「有期雇用派遣社員」であるか ・派遣社員が従事した業務の内容、責任の程度 ・派遣就業した事業所の名称、就業場所、組織単位 ・就業状況(就業日、就業日毎の就業時間、休憩時間) ・派遣社員から申し出があった苦情の処理状況 ・紹介予定派遣に関する事項 ・教育訓練を行った日時、内容 ・派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項(該当する場合に記載) ・労働、社会保険の被保険者資格取得届の有無 ・その他厚生労働省令で定める事項 |
記載漏れや誤りがないように正確に記載する必要があります。必要事項が記載されていれば、管理方法に制限はなく、データによる管理でも問題ありません。台帳は契約終了から3年間保管が必要です。
派遣先管理台帳の記載事項や書き方について詳しくは以下の記事もご覧ください。
派遣先企業の管理項目を理解して適切な派遣管理を徹底しよう
派遣管理業務でよくある悩みや課題として「派遣スタッフの就業状況を正確に把握しきれない」「個別の契約書や派遣先管理台帳の管理は複雑で時間がかかる」などが挙げられます。
派遣スタッフの受け入れは、自社で直接雇用する従業員とは異なり、就業状況や契約内容についての管理が複雑です。そのため、派遣スタッフを探す場合は、フォロー体制やサポート体制が充実している派遣元企業に依頼するのがおすすめです。
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