派遣法改正のポイントと歴史~2022年|同一労働同一賃金はいつからか
派遣法は1986年の施行以来、度々改正が行われています。2020年には「同一労働同一賃金」に関連する大きな改正が行われました。また、2021年は1月と4月に改正が施行され、派遣労働者を受け入れる派遣先企業に関連する内容も盛り込まれています。
派遣法のこれまでの改正の歴史を振り返りつつ、2020年・2021年の改正内容や2022年現在の施行内容について、わかりやすく解説していきます。
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派遣法とは
労働者派遣は、かつては職業安定法によって禁止されていました。
しかし、労働者派遣に類似した「業務請負」が実際に運用されており、企業にも必要なときにスキルを持った人材が欲しいというニーズがありました。そこで、労働者を保護して、適切な管理のもとで労働者派遣を行うために、1986年に施行された法律が派遣法です。
なお、派遣法の正式名称は、当初は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」でしたが、2012年の改正によって、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に変更されています。
改正の歴史と製造業への言及
派遣法は度々、対象職種や派遣期間などの改正が行われて来ました。
派遣法が施行された1986年当初は、対象は専門知識を必要とする13業務に限定されていましたが、同年のうちに16業務に拡大されました。さらに1996年には、対象業務は26業務に拡大されています。
1999年には派遣が原則自由化され、許可業種を決めるのではなく、禁止業務のみを指定する形に一新。派遣期間は、26業務は最長3年、新たに追加された自由化業務は最長1年となりました。
2004年には自由化業務の派遣期間が最長3年、26業務は無制限となりました。また、製造業の派遣が解禁され、派遣期間は最長1年とされました。2007年には、製造業の派遣期間が最長3年へと変更されています。
2015年は大きな改正が行われ、26業務が廃止され、「事業所単位」や「個人単位」で派遣期間は原則として最長3年に統一されました。また、労働契約申込みみなし制度の導入によって、個人単位の3年を超えて派遣を受け入れるなどの違法行為を行った場合に、派遣先企業が派遣労働者に対して、直接、労働契約の申し込みを行ったとみなされるようになりました。
2020年の改正内容
2020年4月の派遣法改正では、「同一労働同一賃金」の実現が大きな柱とされました。また、派遣先企業は派遣会社に対して、待遇に関する情報の提供が義務付けられています。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、正規雇用と非正規雇用の賃金格差を是正し、同じ労働に従事している労働者は同じ賃金を受け取るという考え方です。派遣先企業の正社員と派遣社員の不合理な待遇差を解消することを目的としており、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から施行されます。
ただし、同一の難易度の業務であっても、賃金は企業規模が大きいほど高額になる傾向があります。そのため、派遣社員として同一の業務に就いていても、派遣先企業の賃金水準によって賃金が変動するといったことが起きてしまいます。
そこで、派遣元企業である派遣会社は、派遣労働者の待遇に関して、「均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかの方式をとることが義務付けられました。
均等・均衡方式
派遣先企業の通常の労働者(主に正社員)と均等・均衡待遇をとる方式です。基本給や賞与、福利厚生、教育訓練といったすべての待遇で、通常の労働者との不合理な待遇差がないことが求められます。
労使協定方式
労働者の過半数で組織する労働組合、あるいは労働者の過半数代表者と、労働協定を締結して決定する方式です。労使協定方式でも、教育訓練と食堂や休憩室、更衣室といった福利厚生の利用は、通常の労働者との不合理な待遇差がないことが求められます。
製造業の工場では、食堂や更衣室が設けられていることが一般的ですので、派遣労働者を受け入れる企業側には、直接雇用の正社員などと同様に派遣労働者も利用できる環境整備が必要になります。
派遣先/派遣会社間の情報提供・説明の義務付け
派遣先企業には、労働者派遣契約を締結する前に、派遣会社に対して待遇に関する情報の提供が義務付けられました。
- 均等・均衡方式の場合:
比較対象労働者を選定して、職務の内容や雇用形態、選定理由、待遇の内容、待遇の性質と目的などの情報を提供する - 労使協定方式の場合:
教育訓練と食堂、休憩室、更衣室の利用に関する情報を派遣会社に提供する
一方、派遣会社は派遣先企業に対して、労使協定の対象派遣労働者の該当の有無を通知します。
また、派遣会社は派遣労働者に対する待遇に関する説明義務が強化されました。派遣労働者に対して、昇給や賞与の有無など労働条件に関する事項を明示することや、均等・均衡方式または労使協定方式よって不合理な待遇差を解消することの説明などが義務付けられています。
2021年1月の改正内容
2021年の1月の派遣法の改正のポイントは4点です。
- 雇入れ時の説明義務に教育訓練に関する内容が追加されたこと
- 書面での交付が義務付けられていた労働者派遣契約の締結に電磁記録が容認されたこと
- 日雇派遣の契約解除に対して、基本的に派遣会社が休業手当を支払うこととされたこと
- 派遣先企業に使用者責任がある事項に関する派遣労働者からの苦情は、派遣先企業が対処するとされたこと
雇入れ時における教育訓練についての説明義務
派遣会社は派遣労働者に対して、従来からの雇入時の説明事項に加えて、教育訓練計画や希望者に対して実施するキャリアコンサルティングについて説明することが義務付けられました。派遣労働者はひとつの職場で長期的に経験を積んでいく働き方ではないため、キャリア形成を強化するという狙いがあります。
派遣契約書の電磁的記録の容認
派遣元管理台帳や派遣先管理台帳、派遣会社と派遣労働者の労働契約については、これまでもパソコンで作成した電子データなどの電磁的記録が認められていました。
一方で、派遣先企業と派遣会社が締結する労働者派遣契約は、書面での交付が義務付けられていましたが、電磁的記録が認められるように改正されました。
日雇派遣の契約解除に対する休業手当の支払い
日雇派遣の派遣労働者に落ち度や過失がなく契約解除になった場合で、派遣会社が新たな就業先を確保できない場合は、休業手当を支払い雇用の維持に努めることとされました。
なお、休業手当を支払うのは派遣会社となりますが、派遣先企業の都合による契約解除の場合は、派遣先企業は派遣会社に休業手当以上の額の補償を支払う必要がある点に注意が必要です。
派遣先における派遣労働者からの苦情処理
派遣労働者からの苦情は、従来は雇用主である派遣会社が対応していましたが、労働時間や休憩時間、休日、育児休暇といった労働関係法令上、派遣先企業に使用者責任がある事項に関しては、派遣先企業が誠実に苦情の処理を行うことが定められました。
労働者派遣法では、労働者派遣事業者に対して、登録者の雇用管理や保護を担う専任の「派遣元責任者」を選任することが義務付けられています。
2021年4月の改正内容
2021年4月の派遣法の改正では、派遣会社が雇用安定措置を講ずる際に派遣労働者の希望を聴取することや、マージン率を公開することが定められています。
雇用安定措置に関する派遣労働者からの希望の扱い
雇用安定措置とは、課などの同一組織単位に3年間派遣就労することが見込まれる派遣労働者に対して、派遣就労後の雇用を継続するための措置をいいます。雇用安定措置として、派遣会社は4つのうちいずれかの措置をとることが義務付けられています。
- 派遣先企業への直接雇用の依頼
- 能力や経験から合理的な新たな派遣先の提供
- 自社での無期雇用
- 有給の教育訓練・紹介予定派遣などその他安定した雇用の継続を図るための措置
2021年4月の改正で、派遣会社が雇用安定措置を講ずるにあたって、派遣労働者の希望を聴取することが定められました。
これまで派遣労働者は事実上、需給バランスから従業員を調整するための役割を担ってきた側面があります。しかしこの役割は企業側にとってメリットばかりでなく、ノウハウの伝承や蓄積が出来ないというデメリットにもつながっていました。
2021年の改正により、派遣労働者に上記のようなメリットがあるだけでなく、派遣先企業にも対偶格差がなくなったことでノウハウ伝承や蓄積がしやすくなり、直接雇用にも踏み切りやすくなったため、次世代事業開発の助けとなるでしょう。
マージン率等の開示
従来は、派遣先企業から派遣会社に支払われる紹介料や派遣料などのマージン率は非公表とする派遣会社がほとんどでしたが、この改正にて、マージン率などの情報に関してインターネットなどによる公開が義務付けられました。
マージン率のほか、事業者ごとの派遣労働者の数や派遣先事業所の数、派遣料金の平均額、派遣労働者の賃金の平均額などの情報が公開されます。
まとめ
2021年の派遣法の改正は、派遣先企業への影響はさほど大きくありません。
ただし、これまで派遣労働者の苦情処理は派遣会社が対応してきましたが、労働関係法令上、派遣先企業に使用者責任がある事項は、派遣先企業が誠実に苦情の処理を行う必要が生じました。
これまで以上に労働関係法令を遵守して、派遣労働者が円滑に働ける環境の整備が求められます。
また、2020年の改正の柱であった同一労働同一賃金を実現するための「パートタイム・有期雇用労働法」は、中小企業では2021年4月から施行されます。ここでの中小企業とは、製造業の場合、以下のいずれかの基準を満たしている企業です。
- 資本金の額または出資の総額が3億円以下
- 常時使用する労働者の数が300人以下
こちらに該当する企業にとっては、この同一労働同一賃金の実行が2021年の派遣法改正のメイントピックスとなるかもしれません。
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