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人事・労務ナレッジ

製造業の課題と2030年のあり方〜人材難・IT推進・技術継承にどう向き合うべきか?

製造業の課題と2030年のあり方〜人材難・IT推進・技術継承にどう向き合うべきか?
set01人材定着徹底ガイド

新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ戦争、米中貿易摩擦は、製造業にサプライチェーンの寸断や需要状況の激変といった大きな影響をもたらしています。

また、少子高齢化による人手不足が深刻化する一方で、IT活用による労働生産性の向上がなかなか進んでいないのが実情です。

昨今の製造業の現状を踏まえたうえで、顕在化している課題や今後のあり方について解説していきます。

目次

    製造業が直面する現状

    新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ紛争の影響を受け、製造業ではサプライチェーンの寸断や需要状況の変化によって、事業展開の見直しを図る必要性に迫られています。

    また、「2020年ものづくり白書」では、世界の不確実性の高まりに対応するため、DX推進などによるダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)の強化を図ることが重要とされました。

    サプライチェーンの寸断

    2020年2月、中国武漢に始まる新型コロナウイルスの感染拡大によって、中国とのサプライチェーンが寸断され、一部自動車メーカーなどは生産停止の事態に追い込まれました。

    また、需要が大きく減少した商品がある一方で、需要が急増した商品があるなど、調達や生産の体制、在庫量などの見直しを余儀なくされた企業が目立ちました。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、製造業の中でもBtoC製品を扱う企業は業績を伸ばし、BtoB製品を中心とする企業は業績が落ち込んでいる傾向があります。BtoBビジネスの落ち込みが長引けば、BtoCビジネスも結局は落ち込んでいくことになるので、より経済の悪化は免れないでしょう。

    こうした状況により、柔軟にサプライチェーンを組み替えられる体制を構築したり、従来のサプライチェーンとは別の形での部品調達の仕組み作りをする重要性が、改めて浮き彫りになった形です。

    ものづくり白書にみる、製造業の現状

    「2020年版ものづくり白書」では、気候変動や自然災害、あるいはイギリスのEU離脱や米中貿易摩擦といった国際情勢の激変により、世界の不確実性の高まりが課題として取り上げられました。

    こうした不確実性に対応すべく、ダイナミック・ケイパビリティを強化するべきと提言されています。そして、DX推進による業務効率化は、ダイナミック・ケイパビリティを強化するための有効な手段と位置付けられました。

     

    2030年に向けた国内製造業の課題

    国内製造業では、深刻な人手不足に陥るとともに、後継者不足も顕在化しています。求められる労働生産性の向上に対してはIT活用が有効な手段となりえますが、現状では日本は諸外国に比べて導入が遅れています。

    また、製造現場では、技能職の技術をいかに承継していくかという点も課題となっており、グローバリゼージョンによって国際競争力を高めることも同時に求められています。

    さらに、2021年に経済産業省が報告した「製造業を巡る動向と今後の課題」のドキュメントでは、国内製造業が現状で抱える問題のほか、カーボンニュートラルの達成目標やEV車の普及促進など、2030年をひとつのターニングポイントとした課題が列挙されています。

    深刻な人手不足と後継者不足

    少子高齢化による労働人口の減少によって、製造業では人手不足が深刻化しています。

    経済産業省が2018年にまとめた「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」によると、2017年の調査で、大企業の約96%、中小企業の約94%で人手不足が顕在化しています。また、「2020年版ものづくり白書」では、ものづくり企業の経営課題として、大企業も中小企業も約42%が「人手不足」と回答。さらに大企業の約23%、中小企業の約17%が「後継者不足」と回答しています。

    製造業では、現状の人手不足に加えて、事業継続のための後継者の不在も目を背けられない課題となっているのです。

    出典:経済産業省
    「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」
    「2020年版ものづくり白書」図221-1 ものづくり企業の経営課題(企業規模別)」

     

    IT活用・DX推進の遅れ

    総務省の「平成30年版情報通信白書」によると、各国企業のICT(情報通信技術)の導入状況はドイツとイタリアは90%を超えていて、米国も約80%なのに対し、日本は約70%にとどまっています。さらに、ICTを活かすための環境整備の状況においても、ドイツとイタリアは80%以上の企業が実施しており、米国も70%なのに対し、日本は50%を切る水準です。日本の企業の約半数以上が、ITを活用する土壌ができていないことが顕著となっています。

    また、「2018年版中小企業白書・小規模企業白書」によると、IT導入を実施した企業のうち労働生産性が向上した企業の割合は次の通りです。

    • 業務見直しを行った企業:約50%
    • 業務見直しを行っていない企業:約30%

    ITを導入しても人手不足解消にもつながる労働生産性の向上を図れるとは言い切れず、業務見直しを行うなど、ITを導入する基盤を整えることも重要といえます。

    出典:総務省「平成30年版情報通信白書」図表3-2-1-1 各国企業のICT導入状況/図表3-2-1-3 ICTを活かすための環境整備の状況」
    出典:中小企業庁 「中小企業白書・小規模企業白書概要」

     

    技術継承の寸断

    日本の製造業は高い技術力を所持していることで、諸外国と一線を画していました。しかし、製造現場では団塊の世代の大量退職を契機に、熟練した技能職のノウハウが受け継がれず、技術継承が寸断され、技術力の低下がみられていることが現在における大きな課題となっています。

    特に技術継承の課題を抱えているのは中小企業となりますが、中小企業の技術力は大企業の製品にも関係してきます。そのため、このままでは日本の製造業全体の技術力が衰退していくことが危惧されているのです。

    グローバリゼーションと競争の激化

    製造業では、製造拠点の多くを海外に移転するとともに、海外市場にも参入するなどグローバル化が進められてきました。そんな中、デジタル化によって新興国でも製品の組立てが容易に行えるようになったことで、低価格化が進行し、価格競争が激化しています。

    また、新製品が発売されてから売れ続けるプロダクトライフサイクルが短期化していることから、短期間で集中して売り切ることを求められていることも、国際競争が過熱している要因です。データ分析に基づく開発期間短縮が日本の課題となっています。

    カーボンニュートラルへの対応

    「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という方針の表明によって、日本の脱炭素社会の実現への取り組みはさらに本格化していきます。

    『我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。』

    引用:首相官邸「第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」

    なお脱炭素への対策は、産業部門のエネルギー起源CO2排出量を2013年度比で6.6%削減するという2030年度の目標に対し、2019年度にすで達成しているように、これまでの取り組みが実を結びつつあります。

    今後はサプライチェーン全体を俯瞰しての包括的なカーボンニュートラルへの取り組みや、金融機関によるグリーンファイナンスの導入などより拡大した目線からの対応が求められるとともに、カーボンニュートラルへの取り組みを事業成長のトリガーとしていく姿勢が重要です。

     

    今後の製造業のあり方

    ここまでに挙げた課題を踏まえたうえで、今後の製造業のあり方として求められるのは、需要変動に対応できる人材の確保や技術承継のオペレーションの構築、そして「5S」及び品質マネジメントシステムの強化による適切な品質保証です。また、第4次産業革命に対応するため、IT人材の確保も急務となっています。

    人材確保と流動化対策

    かつては終身雇用を前提とした社会構造となっていましたが、より良い条件を求めて転職をするのが一般的になり、人材の流動化が進んでいます。

    実際に、製造業従事者および製造業への就職・転職意欲を有する人材400名を対象に実施したアンケートでは、約半数の人材が少なからずの退職意向を有していることが明らかになりました。

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    調査概要

    • 調査対象:製造業に従事する方、製造業への就職・転職を検討している方
    • 調査方法:Webアンケート
    • 調査人数:400人
    • 調査期間:2023年2月

    なお本調査においては、10年以上の勤務歴を有するベテラン社員においても、退職を検討している人材は少なくない割合で存在する傾向もわかっています。

     

    従業員の勤務歴や年代別に応じたデータについては、詳細情報をご確認ください。

    こうした人材流動化に直面した昨今、製造業における人材確保は容易ではありません。人手不足という大きな課題を抱えながらも、人件費が固定費としてかかり続ける状況では、急激に需要が低下した局面で利益が圧迫されてしまうからです。

    固定費を削減すべく、業績が悪化した際にリストラを行うには法律上の規制があるほか、従業員のモチベーションの低下も課題となります。一方で、業績が好調の時に新たに人材を雇用するには、採用や教育のコストがかかることからも、人件費は固定費の中でもコントロールが難しいとされているのです。

    そこで、必要な人材の確保を図るとともに、需要の変動に合わせてコストを調整するには、人材の一部に流動性を持たせて、人件費の一部を変動費化するのが得策です。具体的には、繁忙期に業務の一部を外注する、あるいは派遣社員を活用するといった方法が挙げられます。

     

    第4次産業革命~IT人材の確保

    第4次産業革命とは、IoTやビッグデータ、AIを活用した技術革新を指します。これまでの工場では画一的な製品の大量生産を行うのが中心でしたが、顧客のニーズに応じてカスタマイズされた製品の生産が可能になります。多品種少量生産への対応が企業存続のキーポイントです。

    また、AIを搭載したロボットが、人間が行っていた製造プロセスの一部業務を代替することや、IoT機器による制御を行うことで、安定した製品の供給や生産の効率化につながることも期待されています。

    ただし、第4次産業革命の推進には、諸外国に後れをとっているIoTやAIの導入を行うための、IT人材の確保が不可欠です。

    技術継承のオペレーション構築

    製造業の技術継承のオペレーション構築のベースとなる施策が、ナレッジマネジメントの導入です。

    ナレッジマネジメントとは、暗黙知と呼ばれる個人が蓄積している知識や技術、ノウハウを企業で共有する経営手法です。熟練した技能職が持つ暗黙知を言語化した形式知に転換し、チェックリストや作業標準などを作成しして見える化を図り、若手に技術承継を行っていきます。

     

    品質管理、5Sの強化

    適正な品質保証は、顧客からの信頼獲得のために欠かせません。また、品質保証によって、製造ラインの不具合や製品不良を早い段階で把握できれば、製造工程のトラブルによる納期の遅延などを防ぐことができます。

    品質管理において、昨今、重視されているのは「5S」の強化です。5Sは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つの頭文字をとったもので、製造現場での品質保証の基礎になります。

    まとめ

    新型コロナウイルスの感染拡大や世界の不確実性の高まりを受けて、製造業では柔軟にサプライチェーンを組み替えられる体制の構築や需要状況の変化への対応を迫られています。製造業の抱える諸々の課題に対応していくために、人材の面では人件費の変動費化やIT人材の確保といった施策が急務といえるでしょう。

    監修者プロフィール

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    監修:細原 敏之(ほそはら としゆき)

    高分子材料を利用した自動車電装部品の設計、製造、生産技術(設備設計、レイアウト検討)及び品質保証業務などを歴任し、トヨタ自動車関連のティア1サプライヤーであるデンソー、アイシン精機及び三菱電機株などを主要顧客とした業務の責任者を担当。その後、タイ・バンコックでの工場建設の代表取締役、発電所などの金属ガスケットやシール材などの開発・マーケティング担当を経て独立。工場の品質管理、生産管理及び労務管理の業務や、ISO審査員及び経営コンサルティング業務を開始し、現在に至る。

    この記事を書いた人

    Nikken→Tsunagu編集部

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