第5次産業革命(インダストリー5.0)とは?日本の製造業・Society 5.0との関係を考察
製造業のオートメーション化などを意味する第4次産業革命(インダストリー4.0)に続く変革として、「第5次産業革命(インダストリー5.0)」への関心がにわかに高まっています。注目を集める第5次産業革命とはどのようなものか、いつはじまるイノベーションと目されているのでしょうか?
本記事では、第5次産業革命のコンセプトや第4次産業革命との違い、イノベーションを牽引するテクノロジーなどについて、各国の動きを参照しながら考察していきます。
お役立ち資料はこちら
目次
第5次産業革命/インダストリー5.0とは
第5次産業革命(インダストリー5.0)とは、第4次産業革命のキーテクノロジーであるAIやIoTを活用した産業構造の変革に加え、「人間中心」をコンセプトに据えて、環境変化への対応力を有する持続可能な産業への変革を目指す概念です。
2021年に欧州委員会が第4次産業革命(インダストリー4.0)に代わる新しいコンセプトとして、第5次産業革命(インダストリー5.0)を提唱しました。
欧州委員会では、第5次産業革命のキーコンセプトに次の3つを掲げています。
- 持続可能性(サステナビリティ)
- 人間中心(ヒューマンセントリック)
- 回復力(レジリエンス)
持続可能性(サステナビリティ)
持続可能性(サスティナビリティ)とは、環境や社会に配慮しながら、持続可能な形で良好な経済活動を維持していくための概念です。
たとえば国連が主導するSDGs(持続可能な開発目標)は、サステナビリティに関する包括的な取り組みとして広く知られているものです。製造業を含む多くの企業がSDGsに賛同し、構成要件である17のゴール・169のターゲットの達成に向けた取り組みを実施しています。
第5次産業革命では、脱炭素(カーボンニュートラル)の実現や、資源・エネルギーの循環型アプローチ、あるいはデジタルを活用したエコシステムの形成といった取り組みを推進し、地球環境の保全と企業の発展の両立を目指します。
人間中心(ヒューマンセントリック)
人間中心(ヒューマンセントリック)とは、人間のニーズを満たすとともに、利益の最大化を目指す概念です。
わかりやすい例として、産業用ロボットに関するイノベーションが挙げられます。従来の産業用ロボットは、人間とは物理的な距離をとり、安全柵で囲まれたなかで稼働することが一般的でした。しかし現在では、協働ロボットに代表されるように人と機械の協働作業が行われています。結果、作業効率や生産性が向上し、利益最大化を図るアプローチが可能となりました。
第5次産業革命では、こうした人間と機械の「協働」が提唱されています。
回復力(レジリエンス)
回復力(レジリエンス)とは、自然災害やパンデミックなど破壊的な変化に直面したときに、産業や人々の生活を守り回復する力を表す概念です。
新型コロナウイルスの感染が拡大した際には、非対面を確保すべくITを活用したサービスが急速に拡大しました。製造業においては、現実空間(フィジカル空間)の膨大な情報にIoTを通じてアクセスし、AIによるデータ分析を経て、仮想空間(デジタル空間)に環境を再現する仕組みであるデジタルツインの活用も広がってきています。
このように、デジタルを駆使して変化への柔軟な対応力を獲得することが、第5次産業革命にて提唱されているのです。
産業革命の歴史の変遷
そもそも産業革命とは、技術革新とそれによってもたらされる経済や社会構造の変革を指す概念です。これまでに第1次産業革命から4回の産業革命が勃興し、現在は第5次産業革命を迎えているフェーズに位置付けられます。
時期 | 特徴・変化 | |
第1次産業革命/ インダストリー1.0 | 18世紀半ば~19世紀初頭 | 蒸気機関による軽作業の機械化 |
第2次産業革命/ インダストリー2.0 | 19世紀半ば~20世紀初頭 | 重工業の機械化による大量生産時代の到来 |
第3次産業革命/ インダストリー3.0 | 1970年代初頭 | コンピューターによる単純作業の機械化 |
第4次産業革命/ インダストリー4.0 | 2010年~ | AI・IoTの活用による高度な知的活動の自動化 |
第5次産業革命/ インダストリー5.0 | 2021年~ | AI・IoTの活用による人間中心で環境の変化への対応力のある持続可能な産業への変革 |
これまでの産業革命の歴史の変遷を振り返りつつ、特に直近となる第四次産業革命との差分に着目すると、第五次産業革命の大まかなイメージが見えてきます。
第4次産業革命の「自動化」から「自“働”化」へ
第4次産業革命では、AIやIoT、ビッグデータなどが活用され、高度な知的活動の自動化という大変革が起こりました。プログラミング通りに機械が稼働するだけではなく、AIを活用した深層学習のオープン化などの流れを受け、膨大な作業データの学習にもとづいた機械の自動化も実現しています。
その一方で、第4次産業革命では地球環境の保全や循環型アプローチを重視した持続可能な社会の実現、あるいは人間の嗜好性への細やかな配慮など、人間を中心に据えた考え方を十分に取り入れられていないといった課題も指摘されています。
そこで第5次産業革命で打ち出されたのが、上述のコンセプトである「持続可能性」「人間中心」「回復力」の概念です。
第4次産業革命以後となる現代では、産業用ロボットやFA機器などを用いた製造オペレーションの自動化を取り入れ、人間の介在を最小限に抑えることで作業の効率化を進めています。
しかし、こうした自動化に傾斜したオペレーションでは、消費者ニーズが多様化する市場から要請されるカスタマイズ性能などに対し、柔軟な対応を講じにくいという課題も顕在化してきています。そこで第5次産業革命では、協働ロボットの活用など、人間が中心となって機械と協働する、いわば「自“働”化」が提唱されているのです。
グローバルでの進捗と日本国内の動向
第5次産業革命で提唱されている概念は、いまでは世界的な広がりをみせています。また、第4次産業革命で各国が新興国への影響力争いを繰り広げたように、第5次産業革命のグローバルでの浸透に伴い、すでに覇権争いも始まっています。
日本国内や各国・地域の第5次産業革命を巡る動向を考察していきます。
欧州委員会が提唱する「Industry 5.0」
冒頭で挙げたように、欧州委員会では「持続可能性」「人間中心」「回復力」をキーコンセプトとして、2021年1月にIndustry 5.0(第5次産業革命)を提唱しました。第4次産業革命によって生産の効率化やビジネスモデルの変革が実現されたものの、人間のニーズや社会・環境保全などの観点が不足していることを考慮したものです。
また、この背景には、2019年末に発表された「欧州成長戦略2019年~2024年」にて、「人々のための経済」「欧州グリーンディール政策」「デジタル時代のヨーロッパ戦略」が優先テーマとして掲げられたことがあります。
たとえば多くのCO2を排出する鉄鋼業において、カーボンニュートラルな工法への転換を図るなど循環型製品の市場創出を目指し、Industry 5.0での覇権獲得に向けた動きが見られます。
ドイツは「2030 Vision for Industry 4.0」を発表
もともとインダストリー4.0は、ものづくり大国であるドイツが産業政策として2011年に提唱したものです。
そのドイツでは、欧州委員会がIndustry 5.0を提唱する以前となる2019年のタイミングにて、今後10年間の施策として、「2030 Vision for Industry 4.0」を発表しています。これは、インダストリー4.0を2030年までにどのように推進していくか、大きな方向性を示したものであり、「自律性」「相互運用性」「持続可能性」が重要なコンセプトとして提唱されています。
また、2020年11月には、持続可能性を推進するための具体的なシナリオとして、「Sustainable production: actively shaping the ecological transformation with Industrie 4.0」というレポートを発表しています。
さらに後述するように、ドイツは第5次産業革命においてもアメリカとの連携を図るなど、グローバルでの取り組みを牽引するポジションに立っています。
アメリカも環境配慮型の政策に転換
人権意識や環境意識の高い欧州に限らず、持続可能性を重視する流れはアメリカにも波及しています。アメリカもトランプ政権からバイデン政権に変わったことで、環境配慮型の政策に大きく舵を切りました。
トランプ政権下では、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」から2017年に離脱を表明し、2020年11月に正式に離脱した経緯がありました。しかし、2021年1月のバイデン政権の誕生を契機に、2021年2月にパリ協定に復帰しています。
また、2021年4月には、アメリカのスマート製造に向けた共同体とドイツのインダストリー4.0推進機関が、環境と気候変動に対応した持続可能な製造領域で連携を図ることが発表されています。
グリーン製造を推進する中国
中国では2015年、国家スマート製造政策ビジョンとして「中国製造2025」を発表しています。これは、2049年までの製造業の3段階発展計画の1段階目に相当し、2025年までに世界の製造強国入りを目指すというものです。
中国製造2025では、「イノベーション駆動」「品質優先」「環境保全型発展(グリーン発展)」「構造最適化」「人材本位」の5つの基本方針が掲げられています。
また、同レポートでは、製品の機能や品質を確保するととともに、環境や健康、資源やエネルギーの利用効率などに配慮した製造モデルを指す「グリーン製造」の推進や、サステナビリティ領域で世界をリードしていく方針も打ち出されています。
日本が推進する「Society 5.0」
日本が第5次産業革命において競争力の低下を招かないためには、グローバル単位での標準化の動きや覇権争いで後れをとることがないよう、産学連携による国際社会でのポジショニング確保が求められます。
日本では2016年に内閣府が「第5期科学技術基本計画」でSociety 5.0を打ち出しました。これは欧州委員会のIndustry5.0のレポートにおいても先行コンセプトとして取り上げられているように、第5次産業革命のロールモデルともいえる表明です。
Society 5.0とは
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
Society 5.0は、これまで以下のように進化してきた社会の「未来の姿」として提唱されています。
- 狩猟社会(Society 1.0)
- 農耕社会(Society 2.0)
- 工業社会(Society 3.0)
- 情報社会(Society 4.0)
直近の情報社会(Society 4.0)では、多くの情報があふれていても横断的な連携がなされず、知識や情報の共有が不十分であることや、必要な情報を探して分析を行う際の負担の大きさといった課題がみられました。また、少子高齢化が進むなか、年齢や障害によって労働や行動範囲に制約があることや、高齢者ニーズや地域の個別課題に対応できないという問題も顕在化しています。
Society 5.0の目指す社会では、「人間中心の社会」のなかで、IoTですべての人とモノがつながり幅広い情報が共有され、AIの活用によって必要な情報が提供されます。ロボットや自動走行車などのイノベーションを経て、あらゆるニーズへの対応が迅速に行われ、地域や年代といった格差が取り払われる未来を目指しています。
第5次産業革命を牽引するテクノロジー
第5次産業革命で掲げられている「人間中心」「持続可能性」などのキーコンセプトを牽引するテクノロジーとして、協働ロボットとバイオ・スマートセルインダストリーを取り上げます。
協働ロボット
産業用ロボットは、第4次産業革命の中核を担うテクノロジーです。製造現場での働きは多様であり、溶接や塗装、プレス加工、組み立て、運搬などに広く用いられ、生産性向上や品質の安定、コスト削減などに大きく貢献しています。
そして第5次産業革命で活躍する協働ロボットは「人間中心」のコンセプトが反映されたロボットです。従来の産業用ロボットは安全柵のなかで人間と離れて作業を行うのが一般的ですが、協働ロボットは柵のない環境で人間の作業者とともに協力しながら作業を行います。
協働ロボットには、一定の範囲内に人間が入ってきたら接近を感知する超音波センサのほか、動作の時間あたりの速度を測定する加速度センサなどの安全対策も講じられています。
バイオ・スマートセルインダストリー
スマートセルとは、高度なデザインにより特定の機能が強化された細胞のことです。
たとえば、ものづくりのために物質の製造機能を高めた細胞は、細胞の一つひとつが工場となります。スマートセルには、バイオテクノロジーやAIによる情報解析などのデジタル技術が応用されており、スマートセルを活用した産業はスマートセルインダストリーと呼ばれています。
このスマートセルインダストリーは、化学技術では合成できない物質の生産が行える可能性があることから、大きな注目を集めています。たとえば人工合成が難しい複雑な化合物で、植物から抽出した原料を使用しているケースでは、植物によるスマートセルをデザインすることで、安定的で持続可能な原料の確保が実現できることが考えられます。
まとめ
第5次産業革命は生産の効率化に特化したような従来の変革とは異なり、持続可能性をキーコンセプトのひとつに据えるなど、地球環境を保全し、豊かな未来を築いていくための取り組みでもあります。
担うべき社会的責任として、製造企業には人間中心の社会の在り方や環境保全への配慮がますます求められる時代を迎えているといえるでしょう。
お役立ち資料はこちら
半導体・電池業界の研修実績
年間10,000名以上の派遣会社が解説! 製造業トレンド集
半導体・電池業界の研修実績年間10,000名を超える派遣会社が「今後の製造現場を左右する情報」をまとめた資料セットを作成しました。
資料内容
- 深刻化する半導体業界の⼈材不⾜、保全人材の不足による⼯場運営への影響
- リチウムイオン電池とは?普及している二次電池の種類
- 製造業でリスキリングが注目されている理由、仕組み構築に必要なもの