偽装請負の問題とは?指示はどこまで下せるのか?判断基準と罰則
企業にとってアウトソーシングの活用は業務効率化や社内活性化、コスト削減などいろいろな利点があります。しかし、アウトソーシングをする際に気を付けなければならないのが「偽装請負」です。
本稿では人材活用を検討している企業向けに偽装請負の何が問題になるのか、偽装請負とみなされないための判断基準や罰則などを解説します。
- 偽装請負とは労働者派遣契約を締結せず、請負を装って労働者派遣をおこなうこと
- 請負では労働法が適用されないため、労働者は福利厚生全般を受けられない
- 発注元企業の直接指揮命令やスタッフの選定・評価は偽装請負とみなされるリスクも
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目次
偽装請負とは?労働者派遣、請負の仕組みと法律
人材不足が深刻化する昨今、アウトソーシングを活用する企業が増えています。しかし、人材活用の際は「偽装請負」に注意が必要です。
はじめに偽装請負とは何なのか、労働者派遣と請負、それぞれの仕組みとあわせて解説します。
労働者派遣とは
発注主(企業)が派遣会社と労働者派遣契約を結び、派遣会社が発注主(企業)に労働者を派遣します。報酬は「労働力」に対して発生し、指揮命令権は勤務先である発注主(企業)にあります。これが労働者派遣です。
労働者派遣も以前は登録型の「一般労働者派遣」と雇用型の「特定労働者派遣」の2つの区分がありました。
一般労働者派遣(登録型)
労働希望者が派遣会社に登録し、就業する派遣先が決まったら派遣元と有期雇用契約を結ぶ形態です。一般労働者派遣では派遣期間の終了と同時に雇用契約も終了します。
特定労働者派働(常用雇用型)
派遣会社が労働者を社員として雇用し、案件ごとに派遣先に派遣する形態です。特定労働者派働では派遣期間が終了しても派遣元との雇用契約は解消されません。
平成27年の派遣法改正により、現在はすべての派遣事業が許可制になっています。
請負とは
発注主(企業)は請負会社と請負契約を結び、請負会社は特定の成果物を発注主(企業)に納品します。企業は請負会社に「仕事の完成」を依頼し、報酬は結果(仕事の完成)に対して発生します。指揮命令権は労働者の雇用主である請負会社にあり、完成までの過程に発注元企業は関与しません。
これが請負契約です。
また、請負では決められた期限内に成果物を完成させなければなりません。間に合わない場合、報酬は発生せず、賠償請求されることもあります。
請負はさまざまな業種に見られる業務形態ですが、なかでも建築工事などは基本的に請負です。
請負と似ている業務形態に委託があります。
請負は「仕事の完成」に対して報酬が発生しますが、委託では「業務をおこなった事実」に対して報酬が発生する点が違いです。仮に結果が発注者の望み通りでなくても、任された業務を実行すれば報酬は発生します。委託はフリーランスなどに多い業務形態です。
偽装請負とは
偽装請負とは労働者派遣契約を締結せず、請負を装って労働者派遣をおこなうことを指します。
形式的には請負で、実態は労働者派遣というわけです。もちろん違法行為にあたります。
偽装請負のパターン
- 代表型
請負契約に見せかけて、実際には依頼元が業務内容の指示や労働時間の管理をしているパターンです。偽装請負のなかでも特に多いパターンといえます。 - 形式だけ責任者型
形式上は責任者とする人材を現場に設置しているものの、実際には依頼元が労働者をコントロールしているパターンです。単純業務に多くみられます。 - 使用者不明型
企業Aと直接請負契約した企業Bが、請け負った仕事を企業Cに再委託し企業Cが雇用する労働者が大元の発注主である企業Aの現場に行き、企業Aや企業Bの指示の元で仕事をするパターンです。
受発注元や雇用関係が複雑で使用者がだれなのか分かりにくく、中間搾取が起きやすいタイプの偽装請負といえます。 - 1人請負型
労働契約を結ばず個人事業主として請負契約を結んでいるものの、実態は依頼元が直接指示を出しているパターンです。
偽装請負は何が問題?偽装請負が起こる理由とあわせて解説
近年、IT業界を中心にアウトソーシングの負の実態として多重下請けと並んで取りざたされる偽装請負ですが、実際のところ、何がいけないのでしょうか。問題点を偽装請負が起こる理由とあわせて解説します。
偽装請負の問題点
偽装請負の問題は責任の所在が不明確になることにより、現場で業務する労働者の雇用条件や安全衛生、労働環境が適切に確保できなくなる、つまり労働者不利、会社有利になってしまう点にあります。
福利厚生が提供されない
労働者派遣の場合、労働者は勤務先企業と雇用関係にあるので、現場にも労働法が適用されます。ところが、請負では労働者と勤務先企業に雇用関係は成立しないため、労働法が適用されません。そのため労働者は福利厚生全般を受けられないことになります。
健康保険もなければ、通勤・住宅関連費の給付もありません。当然残業手当もなしです。そもそも請負は「結果」に対して報酬が発生する契約形式なので、労働の時間は報酬に影響しないのです。
契約解除・賠償責任のリスクも
雇用契約が成立している労働者派遣では合理的理由がない限り、雇用主 (派遣会社)の都合で契約解除はできません。(労働契約法17条)
損害が発生しても、労働者に悪意や重大な過失があった場合を除き「使用者責任」となり、雇用主(派遣会社)が賠償責任を負います。(民法715条)
けれども請負契約では、請負人が仕事を完成するまでの間であれば、企業側からの一方的な契約解除ができますし、損害が発生すれば賠償請求も可能です。
中間搾取が起こりやすい
請負では複数の企業が関与するケースがあり、中間マージンにより労働者がわずかな賃金しか受けられないこともあります。
偽装請負が起こる理由
偽装請負が起こるのは労働法や派遣法の規制から逃れるためです。
すでに説明した通り、労働者派遣の場合、雇用主(派遣会社)と発注者(勤務先企業)は労働者派遣契約を交わしているので、労働者は労働関連の法令で保護されます。
厚生労働省の認可なしには事業はできず、解雇も簡単にはできません。派遣可能期間などにも制約があり、福利厚生の提供も必要と派遣法によるさまざまな規制があり、雇用主の思い通りにはいかないのです。
一方請負は雇用主(請負会社)と発注者(勤務先企業)が結んでいるのは請負契約であり、勤務先の企業と労働者が雇用関系にないため、労働者は労働関係の法令で保護されません。
事業をするにも許可は要らず、福利厚生などの用意も不要です。
つまり請負では雇用元の都合が通りやすく、負担も小さいわけです。
そこで、請負を装った労働者派遣、偽装請負がおこるのです。
偽装請負の罰則や偽装請負にならないための判断基準
労働者派遣法は第24条2号で「派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けてはならない」と規定しています。
なお、偽装請負では受け入れ側企業にも行政指導や是正措置命令、勧告や企業名公表などの罰則が課せられるので注意が必要です。
偽装請負の罰則
罰則の直接の根拠となる法律は労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)と職業安定法です。
その他労働基準法、労働契約法など労働者保護のための法律にももちろん抵触することとなります。
労働者派遣法の罰則
無許可派遣事業として受注側(請負会社)に「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(労働者派遣法第59条2号)が課せられます。
特定労働者の派遣にあたる場合、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられる可能性(労働者派遣法第60条1号)があります。
職業安定法の罰則
違法な労働者供給事業として受注側・発注側双方に「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(職業安定法第64条9号)が課せられることとなります。
罰則の対象者は、受注側・発注側の違反行為を直接おこなった者、従業員に指示しておこなわせた会社の代表者、管理職など広範囲に渡ります。
労働基準法の罰則
労働基準法には「中間搾取の排除」が規定されています。(第6条)
中間搾取があった場合、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(労働基準法第118条)が課せられます。
適法な請負契約の4つの基準
ここまでの解説で「そうはいっても偽装請負は契約書類を確認すれば見抜けるのでは?」と思われた方もいるでしょう。
しかし、問題は労務実態(労働者がどこの指揮命令下にあるか)であり契約書の内容ではありません。いくらでも請負契約を偽装できます。
つまり偽装請負か否かは傍目には分かるものではないのです。
そこで職業安定法施行規則4条1項に定めがあります。
適法な契約と認められるのは、以下4要件をすべて満たした場合のみです。
- 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うものである
- 作業に従事する労働者を、指揮監督するものである
- 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものである
- 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでない。
なお、以上4要件を満たしている場合でも、法規制を免れる目的の契約であれば違法な労働者供給として処罰されます。(職業安定法施行規則4条2項)
偽装請負とみなされないためにはどうすればいい?
請負・派遣について理解する
大前提として、請負と派遣の違いを企業側がきちんと理解しておかなければなりません。請負と派遣、それぞれの指揮命令権の所在や仕組みなどは最低限把握しておきましょう。
派遣元会社の情報や契約内容をチェックする
相手方の会社情報や契約内容を確認することも大切です。
派遣元の会社が人材派遣業の許可を取得していることを確認できれば、最低限のコンプライアンスは守っている派遣契約について確認する会社であると判断できます。
ただし、派遣元会社に直接契約内容を確認した場合、無許可で運営していてもごまかされる可能性が高いです。派遣スタッフに派遣元との雇用契約書の写しを提出してもらうのがよいでしょう。
確実なのは信頼できる派遣会社と派遣契約を結ぶことです。
偽装請負とみなされるケースを把握する
適法となるケースだけでなく、偽装請負とみなされるケースを知っておくことも重要です。
偽装請負とみなされるケース
- 発注元企業が直接指揮命令をしている
請負では指揮命令権は請負主にあります。発注元が業務方法や労働時間など業務に関する指示命令を下すことはできません。 - 発注元企業がスタッフを選定・評価している
請負では発注元企業がスタッフを選定したり人数を指定したりすることは許されません。よってスタッフを評価することも不可です。 - 発注元企業が服務上の規律を規定している
請負では指揮命令権は発注元企業ではなく請負主に所在します。発注元企業が自社の服務規定を守るよう労働者に通達・管理はできません。
今後は一層のコンプライアンス遵守が求められる
偽装請負は近年問題となっています。取り締まりも強化されているため、企業にはますますコンプライアンスの徹底が求められるようになるでしょう。適正な請負をおこなうためには、偽装請負について理解を深めておくことが大切です。
参考:
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