2023年・製造業の就労ニーズ白書|求職者が就職・転職先を選ぶポイントとは
製造業DXの推進の遅れや、グローバル市場における価格競争の熾烈化など、製造業が直面する課題にはさまざまな項目が指摘されていますが、なかでも最優先事項として共有されているものは、「人材不足対策」にほかなりません。
人材確保に奔走するものの、労働力人口の減少などマクロ要因も向かい風となり、多くの企業は採用活動に苦戦を強いられています。
求職者が就業先を選ぶ基準を理解し、「選ばれる企業」のポジションに立てなくては、過熱する採用競争を勝ち抜くのは困難でしょう。
本記事では、製造業従事者および製造業への就業意欲を有する人材を対象に実施したアンケートに基づき、求職者が就業先を選ぶ判断基準や内包する価値観の変化、そして講じるべき採用アクションについて考察していきます。
ものづくり白書から読み解く、製造業の人材確保施策
製造業の人手不足は深刻化の一途をたどっています。それは現場レベルの肌感覚として浸透しているにとどまらず、「2022年版ものづくり白書」においても明確なデータをもって論及されている喫緊の課題です。
進行する「人材不足」と「高齢化」
- 画像引用:2022年版 ものづくり白書|厚生労働省
上のグラフは、2002年を起点に約20年間の推移を追った、製造業従事者の就業動向を示すものです。以下にその要点をまとめます。
- 製造業就業者数は約157万人減少
- なかでも34歳以下の若年就業者数は約121万人減少
- 一方、65歳以上の高齢就業者数は33万人増加
なお、これは国内全体の懸念事項として各所で指摘されている、「少子高齢化に伴う労働力人口の減少」だけに起因する現象ではありません。全産業に占める製造業の就業者割合に目を向けてみても、3.4ポイントの低下が認められるためです。
全体の労働力のパイが縮小するなか、それを上回るペースで製造業の人手不足は進行し、同時に高齢化率も上昇している事実が読み取れます。
もっとも注力されている取り組みは「採用」
こうした現状に直面し、製造業各企業はどのような対策を講じているのでしょうか。2018年版ものづくり白書では、人材確保に苦慮する企業の取り組みを確認できます。
- 画像引用:2018年版ものづくり白書|経済産業省
- 1位:新卒採用の強化(28.8%)
- 2位:中途採用の強化(14.1%)
- 3位:社内のシニア・ベテラン人材の継続確保(13.9%)
- 4位:人材育成方法の見直し・充実化の取組(10.0%)
- 5位:社外のシニア・ベテラン人材の採用強化(7.3%)
人材育成や人事制度の見直しなどに活路を見出す企業もありますが、もっとも重視されている取り組みはやはり「採用強化」です。新卒採用のほか、社外のシニア・ベテラン人材の採用強化への注力傾向も見られます。
一方、多くの企業が採用活動に注力している現状は、縮小するパイの奪い合いの苛烈化を意味します。過熱する採用競争を勝ち抜くためには、求職者が就業先を選ぶ基準を深く理解し、「選ばれる企業」にならなくてはいけません。
では、求職者が就業先を選ぶ際に重視しているポイントはどこにあるのでしょうか。就業意向を調査すべく、製造業従事者および製造業への就職・転職意欲を有する人材400名を対象にアンケートを実施しました。
- 調査対象:製造業に従事する方、製造業への就職・転職を検討している方
- 調査方法:Webアンケート
- 調査人数:400人
- 調査期間:2023年2月
就業先を選ぶ最重要ポイントは「職場の雰囲気」「人間関係」
上記のアンケート調査に則り、製造業における就職・転職先を選ぶ基準を考察していきます。
就業先を選ぶ際に重視しているポイントを尋ねた質問(※複数選択可)では、「雰囲気・人間関係」の項目が突出した支持を集める結果となりました。なお、回答者全体の68.0%が選択しています。
一方、「給与」「業務内容」といった多くの人材が選択すると考えられていた項目は、相対的にそれほど重視されておらず、それらの項目を複数の選択肢が上回る、少々意外な結果が示されました。
アンケートでは、上記の質問と同時に、回答を選択した理由も合わせて取得しています。「雰囲気・人間関係」を重視すると回答した人材のコメントに目を向けると、以下のような判断基準や体験に基づく志向性が明らかになりました。
- 人間関係に苦しんだ実体験への反動
- 仕事に向き合う中核を占める「チームワーク意識」
- モチベーションや労働生産性との間に認められる相関関係
- 優先度として給与や福利厚生など条件面を上回る
人間関係に苦しんだ実体験への反動
職場の雰囲気や人間関係を重視する理由として、これまでのキャリアのなかで人間関係に苦しめられてきた実体験を吐露するコメントが多く寄せられました。その一部を抜粋し紹介します。
- 製鋼工場に勤めていた時、人間関係に問題があって退職した為(40代/製造業勤続経験5~10年)
- 人間関係で精神的に追い詰められた経験があるのでアットホームな雰囲気を求めます(30代/1~3年)
- これまで様々な職場の明と暗を見てきましたが、人が長続きしない職場は人間関係が最悪です。なのでその点を重視します(40代/3~5年)
- 職場の雰囲気が良好でトラブルの少ない円滑な人間関係を望めることを特に重視しました。理由は人間関係が原因の転職が多かったこと(40代/1~3年)
- 以前の食品製造の工場では人間関係がひどく、陰湿なイジメが行われていたため(私以外が対象)、円滑な人間関係の職場を最優先に考えている。それと同様に、勤務時間等の最低限のコンプライアンスが守られていれば、自然に良好な人間関係が構築できるため、それらのポイントを重視している(50代/1~3年)
- 以前勤めた職場では部門責任者の仲が悪く、平従業員同士も気まずい雰囲気ができていたから(40代/3~5年)
- 以前の職場で人間関係によるストレスが非常に強かったため、ストレスなく働ける職場が望ましい(40代/10年以上)
- 現在の職場の人間関係が非常に良くなく、パワハラモラハラが常態化していて改善されないから、より良い条件の会社があればすぐに転職したい(30代/1~3年)
- かつて、他の職場で人間関係が原因で内部崩壊しかけたので(20代/1年未満)
これらのコメントからは、職場の雰囲気や人間関係は就業先選定の基準となるだけでなく、退職要因にも直結する極めて重要なポイントであることがわかります。
いじめやパワハラ、モラハラが職場で常態化していたり、内部崩壊のきっかけになったりといった例も報告され、「すぐに転職したい」の声も挙がっています。
仕事に向き合う中核を占める「チームワーク意識」
企業による程度の差はあれ、製造業の現場には一人で完結するような仕事はほとんどありません。こうした業界の特性を反映するように、就業先選びの基準として「職場のチームワーク」を重視する声も多く寄せられました。
- 働く人が良い人であれば困った時など助けを求められるため(20代/1年未満)
- 辛い仕事も職場の雰囲気が良ければみんなで乗り越えられるから(30代/1~3年)
- 製造はチームワークが大事なので人間関係がギクシャクしていると仕事自体がつらくなるので(30代/10年以上)
- 一人では仕事は完成させられず、必ず周りの人と協力していかなければならないから(30代/5~10年)
- 職場の雰囲気が良いとフォローアップ体制もしっかりしており、労働時間等も融通が利きやすいから(20代/1~3年)
- 仕事をするに当たり人間関係は重要だと思います。製造業は間接部門、製造部門で連携が重要と感じます(30代/10年以上)
- 中小企業だと、人間関係は重要だと思います。人が少ないので人間関係が悪くなったからといって簡単には異動はできないからです。それに人間関係が悪いと仕事もやりにくくて大変です(40代/3~5年)
- 製造業は皆で1つの物を作るので周りと上手くコミュニケーションを取りたいからです(30代/10年以上)
製造業の現場には困難がつきものです。肉体的・精神的な負荷のほか、予期せぬトラブルに見舞われることも少なくありません。こうした現実を前に、「一人では続けられない」「一人じゃない環境で働きたい」「助け合いが大切」の意識を、多くの従業員が業務における核心的な要素として内包していることがわかります。
逆にいうならば、チームプレイの意識が共有されていない企業・職場は求職者に選ばれにくくなっているのです。
モチベーションや労働生産性との間に認められる相関関係
職場の雰囲気や人間関係が、モチベーションの上下や労働生産性にも影響することを示唆するコメントも目立ちます。
- 人間関係が良好でないと居心地が悪い。悪いと物事が円滑に進まなくて伝達ミスが発生するから(30代/3~5年)
- 働いていた当時、製造業のマネジメントをしていたが、人間関係が円滑でないと離職率が高かった(20代/3~5年)
- 現場の雰囲気によりモチベーションが左右されるので、円滑な人間関係を築けるかどうかは大きなポイントだと思う(40代/1~3年)
- 仕事は慣れれば多少きつくても我慢できるが、人間関係は良好でないと出勤するのがきつい(50代/10年以上)
- 人間関係は働く上で非常に重要視するポイントで、自分のスキルアップや給与の上昇にも影響してくる大事な部分です(30代/1年未満)
- できれば長く勤めたい。そのためには人間関係が一番重要だと考えます(50代/5~10年)
- 生産工場はチーム、ラインで、年上、年下の人が居るので人間関係は1番気を使います。職場の雰囲気が悪いと1日の時間が長く感じられます(50代/10年以上)
- 人間関係が1番大切だと思うんで面接に行った際は雰囲気を見るようにしています。パッと見た限りではわからないですが明らかにヤバい雰囲気を感じ取れることがあります(40代/10年以上)
- 雰囲気次第で仕事への意欲が変わる。また、人間関係が良好であれば効率よく良いものを製造できると考えるから(20代/1年未満)
- 最終的には人間関係が円滑な業務の遂行に繋がる事を理解しているから(40代/5~10年)
- 長く働きたいし、出来るだけ不要な転職は繰り返したくないので人間関係が良いところは最重要視する(30代/3~5年)
仕事に対するモチベーションや企業へのエンゲージメントを維持して長く働き続けるためには、良好な職場の雰囲気や人間関係は譲れない条件になっていることがわかります。
優先度として給与や福利厚生など条件面を上回る
職場の雰囲気や人間関係の良さを、給与や福利厚生といった条件面よりも明確に重視する姿勢を表明するコメントも寄せられています。
- どれだけ給与面、福利厚生等好条件の転職先があったとしても、結局安定して働き続けるためにはその職場の人間関係が一番重要だと思うから。人間関係が良好でないと、精神に異常をきたし、プライベートな時間が破壊されてしまう。私生活を充実させるために働くのに、働くことで自分自身の心が壊されてしまうなら元も子もないことをしているから。(30代/1年未満)
- 何より職場の雰囲気が良い事が働くうえで一番大事だと思っている。長く安定して仕事を続ける為には、人間関係が良い事が重要だと思う。そこを満たしていれば、多少給与が低くても、設備が古くても、それ程気にならない(30代/1~3年)
- もし給料や待遇が良い職場であったとしても、人間関係や労働環境が良くないと長続きしないと考えます。ですから、人間関係と労働環境を重視したいです(30代/3~5年)
- 多少激務でも安月給でも人間関係が良好であれば続けられると考えているため(40代/10年以上)
- 給与が多少良くても職場の人間関係が悪いとトータルマイナスとなるから(30代/製造業勤続経験1年未満)
- どんなに悪条件でも人間関係さえ良ければ私は我慢出来るので。逆にどんなに好条件でも人間関係が悪ければ耐えられないので(40代/1年未満)
- 条件は良いにこしたことはないが重視したいのは人間関係と労働時間です。人間関係は無理難題を要求してくる人がいるので、労働時間は自分の時間や家庭の時間はある程度ないと精神的にきついから(40代/10年以上)
- 労働環境が良かったり、給料が良くても、人間関係、職場環境が悪かったら、継続して働くことが自分はできないので、転職時には職場の雰囲気を重視して決めます(30代/5~10年)
実際に、製造業への就職・転職先を選ぶ際に重視しているポイントを尋ねたアンケートにおいても、「職場の雰囲気が良好で、トラブルの少ない円滑な人間関係を望める」の選択数は、「希望する給与水準を満たしている・現職よりも給与がアップする」の選択数の約2倍にのぼります。
つまり、給与や福利厚生など条件面だけに人材採用施策の解を求めていては、求職者から選ばれる企業にはなれません。
求職者が就業先を選ぶ基準や、その背景にあるマインドの理解を促進する、詳細情報をご確認ください。
労働時間や人員数など「労働環境」も重視される
製造業の就業先を選ぶ際に重視しているポイントを尋ねた質問では、上述の「雰囲気・人間関係」に加えて「労働時間・勤務時間帯や人員数など希望する労働環境を満たしている」の項目も多くの支持を集めました。
なお、こちらも同様に「希望する給与水準を満たしている・現職よりも給与がアップする」の項目を上回ります。回答を選択した理由から、求職者のニーズを考察していきます。
人員数が不足する職場は敬遠される傾向
労働環境を重視する理由として目立っていたのは、人手不足が深刻化するなか、過酷な労働負荷を強いられる職場が顕著に敬遠されている傾向です。
- 人手不足の職場だと皆が忙しくたがいをフォローするなどのこともできないので従業員数、労働環境(残業が少ない)などは重視したい。(30代/5~10年)
- 製造業に勤務していた際、人手が足りず気持ちに余裕がないので人間関係も何かと難しく、あるのならきちんと人員数がきちんとある職場がいいと思ったため(20代/1~3年)
- 人員数が足りていないと、人間関係にも影響を及ぼすことがあるため(20代/3~5年)
- 家事育児と仕事を両立させたいので、通勤にあまり時間がかからず、急に休まなければならなくても、フォローして貰えるだけの十分な人員、福利厚生が整っていることが重要だと思っているので(30代/1~3年)
- 人手不足でアルバイトや派遣に頼るところもありますが、それさえもせずに今いる従業員に負担がかかりすぎるようなところだとちょっと働くことは難しいなと思います(40代/1~3年)
労働環境の悪化が、職場の雰囲気や人間関係の悪化に接続される事例も指摘されています。人員不足が常態化していているような環境は、従業員に過大な負荷を強いることとなるため、求職者に選ばれる企業・職場となることは望めないでしょう。
ワークライフバランスへの配慮は不可欠
働き方改革の浸透や、「働くこと」自体への意識の多様化は、製造業においても認められる潮流です。ワークライフバランスがかつてなく重視されるようになっている傾向が反映されたコメントも複数寄せられました。
- ワークライフバランスを取りながら、ゆとりを持って働きたいから(30代/1~3年)
- 勤務時間帯が希望と合わない場合は、家庭との両立が難しいので続けられない(40代/1~3年)
- 決まった時間に働け、交代制で残業がほとんどないことから、家庭と仕事を両立しやすい。(30代/1年未満)
- 子育て中のため残業が少なく、子どもの体調不良などの急な休みにも対応している職場を検討しているため。(30代/1~3年)
- 子供が小さいため病気の際などに突然の休みを申し出ても問題ない職場であることが第一条件でした(40代/1年未満)
- 夜勤は無理なので勤務時間帯に夜勤や交代制のところは避けます(40代/3~5年)
- 勤務場所と勤務時間帯はとても大事。とくに24時間稼働など、夜勤がある場合は体調管理がとても大変(40代/5~10年)
- 多様性があり過ごしやすい環境だと仕事も気持ちよくできるため(30代/3~5年)
また、「あなたがいま、もっとも大切にしている事は何ですか?」と従業員の価値観を尋ねたアンケートにおいても、1位は「家族と過ごす時間や良好な関係性」、2位には「健康的な生活」がランクインしています。
「お金や資産よりも生活の質」と、QOLを重視する傾向が強まるなか、選ばれる企業・職場づくりにおいて従業員のワークライフバランスへの配慮は欠かせない条件となっているのです。
こうした求職者の価値観の変化は、就労形態の志向性にも大きな変化をもたらしていることが、次の調査によっても明らかになっています。
絶対的な正社員志向は薄まっている
求職者の価値観が多様化する現代では、これまでは絶対的ともいえた「正社員志向」にも変化の兆しが見られます。
「契約社員や派遣社員でも構わない」の回答は、ほぼ半数に迫ります。この結果の背景には、さまざまな要因が連想されるでしょう。
- 「残業の少なさ」を魅力に感じているのか?
- 「短期間で貯金したい」意向があるのか?
- 「濃密な人間関係」を苦手としているのか?
そこで、「契約社員や派遣社員でも構わない」の回答を選択した人材を対象に、その理由を尋ねるアンケートを合わせて実施しました。
その結果、明らかになったのは突出した「2つの理由」です。人材確保施策として契約社員や派遣社員の登用を検討する企業は、現代の求職者の志向性の変化も押さえておくべきでしょう。
いずれにせよ、こうした求職者の価値観の変化に目を向けると、人材採用にて苦戦を強いられている企業は、契約社員や派遣社員の登用など、正社員だけに限定しない採用チャネルの拡大を検討するフェーズに置かれていることが浮かび上がります。
求職者に「選ばれる企業」になるために
製造業の人手不足が深刻化していることは論をまちません。過熱化する採用競争を勝ち抜くためには、「選ばれる企業」になるための努力は欠かせない取り組みといえるでしょう。
- 求職者が就業先を選ぶ際に重視しているポイント
- 従業員が抱いている価値観の変化
- 絶対的な正社員志向の希薄化
これらの観点から従業員の意識構造を明らかにしてきましたが、実際に採用活動を成功させるために、どのような施策を講じるべきなのでしょうか?
施策のヒントは、大きく以下の4つの方針に分類できます。
- 「一人ではない」「共感できる」風通しの良い職場環境を整備する
- チーム単位での採用戦略を策定する
- 正規社員/非正規社員の分断を防ぐ
- 派遣会社は集約する
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- 定着する人材育成のポイント