MaaSとは?海外・国内事例と観光など期待される課題解決メリット
これからのモビリティサービス変革の潮流として、官民が連携し実用化や実証実験が進められているMaaS。フィンランドをはじめとする欧州では先行して導入が進んでおり、人々の交通利便性が向上するだけではなく、地域の課題解決につながることが期待されています。
MaaSの定義やレベルなどの概要や、導入によるメリットや推進事例を紹介していきます。
- MaaS(マース)とは、複数の種類のモビリティサービスを、ICT(情報通信技術)を活用しひとつのサービスに統合する仕組み
- 統合の程度によってレベル0~4に分けられる
- MaaSは交通の便を改善するだけでなく、観光面・混雑回避、脱酸素社会の向上などのメリットも
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目次
MaaSとは
MaaS(Mobility as a Service/読み方:マース)とは、複数の種類のモビリティサービス(交通手段)を、ICT(情報通信技術)を活用しひとつのサービスに統合する仕組みです。運営事業者が異なる電車やバス、タクシー、レンタカー、カーシェアリングといったモビリティサービスを一体化し、検索や予約、支払いなどがひとつのアプリなどで完結する仕組みです。
なお、国土交通省ではMaaSを次のように定義しています。
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。
- 引用元:日本版MaaSの推進|国土交通省
MaaSレベルとは
MaaSは比較的新しい概念で、明確な定義というものはありません。提供されているサービスにも違いが見られるため、モビリティサービスの「統合の程度」によるレベル分けがなされています。
なお、このレベル分けはスウェーデンのチャルマース工科大学の研究者によるものですが、日本の国土交通省でも採用されています。
レベル0:統合なし
モビリティサービスが単体でサービスを提供している段階。
【主なサービス】
- 鉄道
- バス
- タクシー
- 旅客船
- 旅客機
- レンタカー
- カーシェアリング
レベル1:情報の統合
料金・路線・時刻表・所要時間・距離・車両の位置・運航状況などの情報が統合され、アプリやWEBサイトなどにより、経路検索や運賃情報などが利用者へ提供される段階。
【主なサービス】
- NAVITIME
- ジョルダン乗換案内
レベル2:予約、決済の統合
モビリティサービスが単体でサービ目的地まで利用する複数の事業者のモビリティサービスをアプリなどのプラットフォームで比較して、予約・決済までワンストップで行える段階。
【主なサービス】
- 滴滴出行
- Smile einhuach mobil
レベル3:サービス提供の統合
複数の事業者のモビリティサービスがプラットフォームによって統一され、パッケージ化された1つのサービスとして提供される段階。定額乗り放題サービスといったサブスクリプションサービスが提供される。
【主なサービス】
- Whim
- UbiGO
レベル4:政策の統合
モビリティサービスが単体でサービスを提供して国や地方自治体が都市計画にMaaSを組み込み、街づくりと連動する段階
MaaSレベルの現在地
日本の現状は、おおむねMaaSレベル1の段階にあると位置づけられます。MaaS先進国ではレベル3に該当するサービスも開始されており、その代表的な導入事例にフィンランドの「Whim」が挙げられます。
フィンランドでは、公共交通機関の乗り継ぎの悪さや最寄り駅の遠さなどの課題を抱えていました。自動車への依存度が極めて高いことから、ヘルシンキを中心にしたエリアの交通渋滞やCO2の排出量も問題となっていたのです。
そこで、民間企業が主導して政府がサポートするという形で MaaSの導入が進められています。
MaaSアプリ 「Whim」は、サービスエリア内の鉄道やバス、タクシー、レンタサイクルなどのモビリティサービスを一元管理されています。目的地を設定すると、有効な移動手段となるモビリティサービスの組み合わせや経路が提案され、支払いまでをアプリで完結できる仕様です。
「Whim」は月々の定額料金ですべてのモビリティサービスを利用できるプランがあるなど、頻繁に利用する人ほど費用対効果が大きくなり、公共交通機関を積極的に活用する意識の醸成にも寄与しています。
MaaSの市場規模の拡大予測
リサーチステーション合同会社が取り扱う「モビリティサービス(MaaS)の世界市場:サービス・ソリューションタイプ別、主要国地域別2030年予測」によると、MaaSの世界市場規模は2021年では33億ドルとなっており、2030年には401億ドル、平均年成長率は32.1%と大きく成長することが予想されています。
MaaSのメリットと期待される課題解決
- 引用元:日本版MaaSの推進|国土交通省
上述のように、MaaSの市場規模の将来的な拡大が見込まれているのは、次に挙げるような数々のメリットに立脚するものです。
- 移動や決済・予約の利便性の向上
- 交通格差・地域格差の是正
- 観光・インバウンド需要の活性化
- 混雑回避・新しい生活様式への対応
- Society5.0・スマートシティ化の実現
- 脱炭素社会の推進
MaaSの導入は生活の利便性向上や経済活性化につながるだけではなく、環境面へのポジティブな効果も示唆されています。
移動や決済・予約の利便性の向上
鉄道やバス、タクシーなどを乗り継いで移動する際は、それぞれのサービスごとに予約や支払いを行うのが一般的です。 MaaSの導入で、この一連の行動プロセスは大きく効率化されます。目的地までのモビリティサービスを検索する段階では、シェアサイクルやレンタカーなども含め最適な手段を選べるほか、予約や支払いまでをワンストップで完了できるようになるため、利便性や効率性は飛躍的に向上するでしょう。
交通格差・地域格差の是正
MaaSで便利になるのは都市部だけではありません。交通の地域格差是正につながることもメリットです。
地方では公共交通機関の赤字経営が常態化し、事業存続の危機に陥っているケースが少なくありません。利用者が少なくなれば、鉄道やバスの路線は廃止に追い込まれ、その結果ますます人口は減少。ほかの路線の採算もとれなくなっていくという悪循環を招くでしょう。
MaaSを導入して取得されるデータを活用すれば、たとえばバスの停留所の配置見直しなど、公共交通機関の運営は効率化されます。また、MaaSの定額料金利用で一定の収入が見込めるようになると、経営の安定化にもつながっていくでしょう。
高齢者の車の運転が社会問題化している昨今ですが、利便性の高い移動手段を代替として確保できれば、安心・安全な街づくりにも寄与します。交通弱者に置かれがちな高齢者などが、鉄道やバス、タクシーを組み合わせて、気軽に外出しやすくなることも利点です。
観光・インバウンド需要の活性化
交通網が発達していない観光地への移動手段を最適化できれば、地域活性化にも大いに貢献します。不慣れなエリアであっても、観光客はモビリティサービスの検索や予約をスムーズに実行できるようになるでしょう。
MaaSアプリの多言語化で、外国人観光客の交通利便性も向上が見込まれ、インバウンド需要のアップも期待されます。
混雑回避・新しい生活様式への対応
道路交通が飽和状態にある都市部においては、複数の公共交通機関を一体的に利用できるようになることは大きなメリットです。公共交通機関の利用が促進されるほか、タクシーやカーシェアリングを含めたモビリティサービスの定額料金利用も本格化。自家用車の減少につながり、混雑の緩和も期待されます。
道路混雑が緩和されれば、物流の効率化にも貢献するでしょう。
Society5.0・スマートシティ化の実現
- 画像引用元:Society 5.0|内閣府
Society5.0とは、現実空間と仮想空間が一体となり、高齢化社会や格差の拡大など、さまざまな社会問題の解決と経済発展を実現する社会のことです。そしてスマートシティは、ICTの活用で高度なマネジメントを行う「持続可能な都市」を志向するもので、Society5.0の先行的な実現の場として位置づけられています。
MaaSはSociety5.0・スマートシティの推進に重要な役割を担います。たとえば車両の位置情報や道路混雑状況などのデータを取得・分析し、車や人の流れをコントロールするスマートシティの実現に寄与します。
脱炭素社会の推進
MaaSの導入で公共交通機関やカーシェアリングの利用が促進されると、自家用車の使用は減少へと向かい、温室効果ガスの排出量も抑制されます。
また、必要とされる駐車場が減ることから、緑地転用を推進していくといった施策も展開できるでしょう。
日本国内企業におけるMaaSの推進事例
ボールドライト株式会社による「MaaSカオスマップ」にて可視化されているように、すでに日本国内でもMaaSに関連する多様なサービスが展開されています。
トヨタ自動車:モビリティカンパニーを目指しプラットフォーム・アプリを展開
トヨタ自動車は、自動車を作る会社からモビリティカンパニーへの転換を目指し、MaaSに関連する多様な取り組みを積極化しています。
その代表例が、さまざまなモビリティサービスを対象としたオープンプラットフォーム「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」です。トヨタコネクティッドと協業し、シェアリングサービスやタクシー、ロジティクス、観光などの事業者や、自治体などでの使用を想定し、車両管理や認証機能などのAPIを提供しています。
また、MaaS向けのEV自動運転車として、自動運転シャトル「e-Palette」の実証実験も話題になりました。東京五輪・パラリンピックの選手村のほか、東京臨海副都心などで運行されています。
さらに、MaaSアプリ「my route」の展開も本格化。「my route」は2018年から西日本鉄道と福岡市と連携した実証実験を開始し、多くの事業者との協業を取り入れながらサービスエリアを拡大しています。
「my route」の機能は急拡大しており、電車やバス、タクシー、シェアサイクル、カーシェアを網羅したルート検索はすでに全国対応。一部のエリアではバスの走行位置やサイクルポートの満空情報などリアルタイム情報の提供も始まり、移動手段の予約・購入なども取り扱っています。
一般的なMaaSアプリは、主に地域の交通事業者が運営しているのに対して、「my route」は自動車メーカーが主導していることもポイントで、全国展開を視野に入れた運用がなされています。地域ごとに鉄道やバス、タクシー、カーシェアリングなどの事業者をパートナーとするほか、観光情報事業者ともタッグを組んでいます。
JR東日本:「都市・都市間MaaS」「地域・観光型MaaS」を展開
JR東日本では、2軸でのMaaS事業を展開しています。
- 都市・都市間MaaS
「都市・都市間MaaS」として「JR東日本アプリ」を展開。運行情報機能では走行位置の把握が可能で、混雑情報や駅情報の提供を行うほかほか、指定席予約機能や航空券予約サイトと連携しています。また、経路検索機能では、ほかの交通事業者とのリアルタイムデータ連携により、電車が遅れているときには遅れ時間を踏まえた到着予想時間を確認できます。
- 地域・観光型MaaS
「地域・観光型MaaS」も各エリアでの展開が始まっています。特筆すべきは、2021年から再スタートした「TOHOKU MaaS」の事例です。観光施設や交通チケットなどをスマホから購入できるサービスで、予約に応じて乗り合いで運行するオンデマンド交通も実施しています。
大阪メトロ:街づくりへの貢献を目指した都市型MaaS構想「e METRO」
大阪メトロは都市型MaaS構想「e METRO」を掲げ、グループで運行する鉄道やバスを軸に、流通や、都市開発、デジタルマーケティングなどのサービスを接続し、大阪の街づくりに貢献しています。
同社は「Osaka MaaS 社会実験版」アプリを展開し、オンデマンドバスの予約・決済や乗換検索の機能を実装。オンデマンドバスの運行は2021年から生野区・平野区で開始され、300m間隔で乗降場所が設定されています。
アプリには予約可能な時間帯が表示され、複数人が利用する場合にはAIが最適なルートを割り出し、到着の遅延は最大で30分程度に抑えられる仕組みになっています。
小田急電鉄:MaaSアプリ 「EMot」やオンデマンドバスの運行
小田急電鉄では、MaaS戦略を「統合型」と「次世代サービス型」の2軸で展開しています。
統合型は「EMot」というブランドで実施されており、MaaSアプリの開発やサービスの連携を行っています。
- 周遊券などのデジタルチケットやロマンスカーの特急券の購入
- 複合経路検索
- 実証実験エリアでのオンデマンドバスの利用
「EMot」はこれらの豊富な機能を有するほか、デジタルチケットには譲渡機能も実装。家族や友人のグループ旅行の利便性を拡張しています。
また、次世代サービス型としてはオンデマンド交通の実証実験のほか、大学のキャンパス内や公道での自動運転の実証実験を行っています。
まとめ
日本は欧米と比較してMaaSの推進で遅れをとり、現状ではレベル1の段階に甘んじていると見なされていますが、レベル2の実現も遠い未来ではありません。
MaaSの導入には、事業者間のデータ連携やキャッシュレス決済の浸透など解決すべき諸問題は残されているものの、交通の混雑や地域格差の解消、環境問題などの社会課題を解決する手法としてMaaSは高いポテンシャルが期待されており、官民挙げての推進体制の加速が見込まれています。
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資料内容
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