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自動車

電気自動車(EV)の今後と世界の将来予測|日本では普及しない?トヨタや日産・ソニーの取り組み

電気自動車(EV)の今後と世界の将来予測|日本では普及しない?トヨタや日産・ソニーの取り組み
set02製造業トレンド集

脱炭素社会・カーボンニュートラルの実現に向け、世界では「脱ガソリン車・ディーゼル車」を掲げて、電気自動車(EV)にシフトする動きが加速しています。

日本ではまだまだガソリン車が主流ですが、今後電気自動車は普及するのでしょうか? 国内での普及にあたっては、充電インフラや車体価格、航続距離など、さまざまな課題を解決しなくてはいけません。

世界で電気自動車が推進される背景や普及率、国内での普及に向けた課題、ホンダや日産、トヨタ、さらに新規参入のソニーなど国内メーカーの動向や、製造業への影響などを解説していきます。

この記事でわかること
  • 電動車は2030年に世界新車販売台数の51%の普及シェア率を獲得すると推計されている
  • 国内では充電設備や車体価格、航続距離などが普及の課題
  • 電動車へのシフトにより主にエンジン部品の需要が低下、製造業者への影響が考えられる

目次

    電気自動車の現在地と将来予測

    欧州各国では脱ガソリン車・ディーゼル車に向けた目標を掲げ、海外の大手自動車メーカーは電気自動車(EV)へのシフトを進めています。2030年というそう遠くない将来で、ガソリン車・ディーゼル車の割合は半分以下となり、電気自動車(EV)を中心とした電動自動車が主力となることが見込まれているのです。

    電気自動車推進の世界的な動向

    地球温暖化対策および都市部の大気汚染対策として、世界各国で従来のガソリン車やディーゼル車はもとより、プラグインハイブリッド車(PHEV)を規制する動きが広がっています。

    脱ガソリン車・ディーゼル車のトレンドを牽引しているのは欧州で、ドイツやイギリス、フランスでは、2030年や2040年までに新車販売が禁止される予定となっています。

    こうした脱ガソリン車・ディーゼル車の動きを受け、今後、電気自動車の市場拡大が見込まれているのです。

    「脱ガソリン」が広がる背景

    自動車の「脱ガソリン」が広がる背景にあるのは、地球温暖化の主な原因である二酸化炭素(CO2)の排出量を抑制する、脱炭素社会を目指す動きです。

    ガソリン車と比較して、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車(HV)は、走行中のガソリンの燃焼によるCO2の排出量を抑えることができます。そして、さらに先へ進む電気自動車(EV)は走行中にCO2を排出しません。こうした特性から、電気自動車へのシフトを進める動きが活発化しているのです。



    電気自動車の将来予測:2030年には普及シェア率50パーセントを突破

    ボストン コンサルティング グループ(BCG)のリポートによると、世界の電動車(xEV)の新車販売台数に占めるシェアは、2030年にはガソリン車を上回る51%まで伸びることが予想されています。

    なお、この電動車には、完全に電動化された電気自動車(BEV)のほか、電気とほかの動力を組み合わせて走るハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)なども含まれます。

    参考:BCG「世界の電動車(xEV)シェアは2030年に51%へ。日本では2030年に55%、ハイブリッド車が引き続きシェアを維持」

    「EVの普及が遅れている」との言説も目立つ日本市場においても、電動車の新車販売台数のシェアは、2030年に55%を占めることが見込まれています。

    ただし、日本では2019年の時点で、すでにハイブリッド車のシェアが22%を占めていました。2030年の世界のハイブリッド車のシェアは7%と推計されていますが、日本市場では23%と現状を維持することが見込まれています。

    電気自動車普及率世界ランキング

    電気自動車普及率世界ランキング
    画像参照元:Global electric car stock, 2010-2021|IEA(国際エネルギー機関)

    IEA(国際エネルギー機関)が発表しているレポートによると、世界のEV台数は右肩上がりで上昇。EV市場は急成長していることがわかります。

    なかでも中国、そして脱炭素の旗振り役を担うEUにおけるEV普及率は目覚ましいです。2021年時点で、中国におけるBEVとPHEVの合算台数は約780万台。2021年は前年対比170パーセント以上の伸びとなりました。

    EUの伸びも堅調で、合算台数は約550万台に到達。2021年にはPHEVの台数も大きく伸びています。

    国内主要メーカーの動向

    世界の大手自動車メーカーが電気自動車(EV)にシフトする中、日本の自動車メーカーは遅れをとっているとされる向きもありますが、各社とも次世代⾃動⾞戦略として電気自動車やプラグインハイブリッド車(PHV)の強化を着々と図っています。

    トヨタ自動車:BEVに本格参入・2050年にガソリン車ゼロへ

    トヨタ自動車は、2022年5月に新型BEV「bZ4X」の申込受付を開始。9月には人気のコンパクトSUV「ハリアー」のPHEVモデル追加を発表しており、2050年に2010年比で新車のCO2の90%削減や純内燃機関車(ガソリン車・ディーゼル車)商品のゼロ化などを目指す 「トヨタ環境チャレンジ2050」 を推進しています。

    日産自動車:新型軽EVも投入・ゼロ・エミッション車の普及を目指す

    2010年、世界初の量産型EV車「リーフ」を発売した日産自動車では「ゼロ・エミッションリーダーシップ」を掲げ、2022年1月には新型EV車「アリア」、6月には革新的な軽+EV「サクラ」と、続々と新型車種をリリース。引き続き開発や生産に注力しています。

    ゼロ・エミッション車とは、一般的には有害物質を排出しない電気自動車や燃料電池車(FCV)を指すもので、日産はCO2を全く排出しない自動車の普及を目指しています。

    本田技研工業:PHVを中心に次世代自動車を強化・EVバイクにも注力

    本田技研工業では、2030年頃までに電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の販売比率を2/3にまで高めることを目標としています。まずは、プラグインハイブリッド車の開発を強化する方針です。

    2022年9月には、二輪EVへの取り組みも発表。2025年までに10車種以上のEVバイクの展開、2030年にはバイクの総販売台数の約15%をEVとする目標を明らかにしています。

    マツダ:2030年のEV販売比率25%を目指す

    2021年に初のEV車「MX-30 EV MODEL」を発表したマツダは、 2030年のEV販売比率25%を目指す電動化戦略を掲げています。2025年までにEV3車種を展開し、2030年までにすべての車種にEV技術を投入する方針です。

    ソニー:EV事業を共同展開「ソニー・ホンダモビリティ」を設立

    EV車への参入アクションは、旧来の大手自動車メーカーのみにとどまりません。2020年、試作EV車「VISION-S」を発表したソニーグループは、2022年9月にはホンダと協業した「ソニー・ホンダモビリティ」を設立。両社の出資比率はともに50%、2025年には共同開発のEV車の投入が見込まれており、EV事業へ取り組む動きはついに本格化しています。

    日本国内で電気自動車が普及しない理由と過渡期に顕在化する課題

    国内メーカーの電気自動車(EV)は、三菱自動車が2009年に「i-MiEV」を、日産自動車が2010年に「リーフ」の発売を開始して以降、10年以上が経過しています。しかし、日本では電気自動車の普及が進んでいるとは言い難いのが実情です。

    その要因には、さまざまな課題が挙げられます。

    • バッテリーの充電設備の整備状況
    • 車体価格の高さ
    • 航続距離の問題

    また、日本の電力の供給状況から、「電気自動車は本当にエコなのか?」という疑念も生じています。

    「電気自動車=エコ」は本当なのか?

    走行中にCO2を排出しない電気自動車(EV)は本当にエコなのでしょうか。まずは、電気自動車とハイブリッド車(HV)の定義をおさらいしておきます。

    • 電気自動車(EV)
      電動モーターで駆動させる車。EVはElectric Vehicleの略。
    • ハイブリッド車(HV)
      ガソリンと電動モーターの2つの動力を搭載し、併用することで低燃費を実現する車。HVはHybrid Vehicleの略。

    電気自動車は走行時にはCO2を排出しないため、ゼロ・エミッション車と呼ばれています。しかし、電気自動車のモーターを駆動させるためにバッテリーに蓄える電力は、元をたどれば、日本では80%以上が火力発電によって作られたものです。火力発電所からはCO2が排出されています。太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを使用するケースを除くと、電気自動車はゼロ・エミッション車とは言い切れないのです。

    実際に電気自動車とハイブリッド車の走行距離あたりのCO2排出量を比較した、広島市が発表したレポートが公開されています。

    参考:広島市「次世代自動車のCO2排出量」

    電気自動車の走行距離あたりのCO2排出量を、バッテリー充電時に消費する電力のバッテリー容量と走行距離から算出すると、ハイブリット車のCO2排出量を上回っています。また、プラグインハイブリッド車(PHV)や燃料電池車(FCV)を含めても、もっともCO2排出量が少ないのはハイブリッド車と結論づけられています。

    また、ひとつの製品の生産から廃棄・リサイクルまでに至るライフサイクルアセスメントの観点からは、電気自動車の方が生産時に排出するCO2が多いため、やはりエコではないのでは?という疑問が生じています。

    いずれにしても、単に電気自動車を推進するだけではなく、再生可能エネルギーへの転換も進めなければ、脱炭素社会の実現に向けて大きな貢献とはならないといえるでしょう。

    普及のカギを握る充電インフラの整備状況

    電気自動車(EV)の普及のカギを握るのは、充電インフラの整備です。2017年に経済産業省が取りまとめた資料によると、充電設備設置は新築戸建ての60%、新築マンションの99%で非設置という状況です。現状では電気自動車の購入者の多くは戸建ての居住者ですが、都市部ではマンションへの充電設備の設置が進まなければ、普及は難しいと考えられます。

    参考:経済産業省「EV・PHV普及に関する経済産業省の取組」

    そこで経済産業省では、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の充電設備の普及を進めるため、「令和2年度電気自動車・プラグインハイブリッド自動車の充電インフラ整備事業費補助金」を設けました。この補助金の対象となったのは、マンションのほか、事務所や工場、商業施設や宿泊施設、高速道路のSA・PAや道の駅への充電設備の設置です。

    普及を阻害する「車両価格」の問題

    電気自動車(EV)の普及を阻む大きな要因のひとつに、車両価格の高さも挙げられます。

    たとえば、日産リーフの車体サイズは大きめのコンパクトカーであるCセグメントで、価格帯は40kWhバッテリーで300万円台、62KWhバッテリーで400万円台です。メルセデス・ベンツAクラスが300万円台で購入できることを考えると、割高と感じることもあるでしょう。

    車体価格を押し上げている大きな理由は、電気自動車用の電池の価格の高さです。経済産業省による「クリーンエネルギー自動車補助金」も整備されていますが最大で42万円と、ガソリン車などとの価格差を埋めるほどではありません。

    電気自動車が安くなる時期はいつか?

    車両価格の高さから、消費者は電気自動車の「買い時」を見極められていません。ただし、下記の理由から2025年がひとつのターニングポイントになるという論調も見られています。

    • CAFE 規制の基準が2025 年に引き上げられる
    • 相次ぐ新車種の投入や全固体電池搭載EV車の登場
    • 自動運転技術の進歩

    CAFE規制とは、メーカーの車両出荷台数に基づいた平均燃費目標基準です。この基準が2025年に引き上げられるため、メーカーは高燃費のPHEV車や電気自動車の割合を増やす必要性に迫られます。 ゼロ・エミッション を目指す動きが進み、メーカーはEV車を主力商品として続々と投入。価格競争の活発化がおのずと見込まれます。

    また、全個体電池搭載のEV車の発表も待たれます。実用化は2030年以降と見られていましたが、トヨタでは2020年代前半に全固体電池搭載車の実用化を目指しています。



    電子制御で動く電気自動車と相性の良い、自動運転技術の急伸も注目点です。ホンダの安全運転支援システム「Honda SENSING」を皮切りに、日本国内でも自動運転レベル3車が一定の条件下で走行可能になりました。

    自動車業界の新たな潮流を示す「CASE」の「A(Autonomous):自動運転」「E(Electric):電気自動車」の相乗効果も、電気自動車の価格競争を後押しするでしょう。



    「航続距離」の課題は今後徐々に解決へと向かう

    電気自動車は「航続距離」の短さも普及を阻む要因となっていましたが、バッテリー容量を大きくすることで、航続距離の問題は解決しつつあります。

    ただし、バッテリー充電に時間がかかるという課題は解決されていません。日産リーフの62KWhバッテリーの航続距離は458kmありますが、急速充電器でフル充電するには60分ほどかかります。長時間走行によるバッテリー切れの心配は軽減されましたが、電気自動車の普及を進めていくには、スピーディーに充電が可能な設備の整備が望まれています。

    さらに、電気自動車の普及が進んだ段階では、夏場や冬場の電力ピーク時に電力の供給量が足りなくなる可能性も指摘されています。

    日本国内市場・製造業へ波及する影響

    自動車産業は日本の基幹産業です。しかし、電気自動車はガソリン車とは使用する部品が異なることから、普及が進むにつれて国内製造業に大きな影響を及ぼすことが危惧されています。また、日本が脱・ガソリン車を進めていく過程では、軽自動車の規格が撤廃される可能性も秘めています。

    電気自動車の普及で約4割の部品が不要に

    電気自動車(EV)などの次世代自動車の普及が進むと、3万点にもおよぶとされるガソリン車の部品のうち、およそ4割が不要になることが想定されています。

    電気自動車の普及で特に大きな影響を受けるのは、電気自動車では不要となるエンジン部品の製造業者です。駆動・伝達および操縦部品ではトランスミッション、電装品・電子部品ではエンジン制御装置やスパークプラグなどが不要となります。

    電動自動車へのシフトを見越して、すでにガソリン車で培った技術を転用できる部品の製作に取り組む業者も見られますが、多大な影響をおよぼすことが考えられます。

    軽自動車の規格は撤廃されるのか

    日本でも、2020年11月に政府が「2030年代後半に純ガソリン車の新車販売をなくす」ことを検討していることが報道され、12月には軽自動車も含めて検討されていることが明らかになりました。日本ではガソリン車がまだまだ主流であり、国内新車市場での約4割のシェアを占める軽自動車までもが対象に含まれるとなると、影響はさらに甚大です。

    電動化することで軽自動車の価格の上昇が想定されます。かつて軽自動車は100万円以下で購入できましたが、最近では性能の向上により、150万円~200万円のモデルが中心となっています。さらに電動化によって、軽自動車が低価格帯のモデルで200万円程度になることが予想されているのです。

    ただし、現行の軽自動車の規格では、バッテリースペースを確保すると車内のスペースが狭くなってしまうという課題があります。そのため、税負担が抑えられることからも人気のある、軽自動車の規格の見直しや撤廃が行われる可能性も指摘されています。

    まとめ

    世界では電気自動車(EV)の普及が進められていますが、現状では高級車が中心です。また、火力発電を中心とした日本の電力の供給状況では発電時にCO2が排出されるため、脱炭素社会の実現への貢献が限定的というのが実情です。

    いずれにしても、PHEV(プラグインハイブリッド車)やHV(ハイブリッド車)を含め、次世代自動車の普及は今後ますます進んでいくでしょう。

    監修者プロフィール

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    監修:細原 敏之(ほそはら としゆき)

    高分子材料を利用した自動車電装部品の設計、製造、生産技術(設備設計、レイアウト検討)及び品質保証業務などを歴任し、トヨタ自動車関連のティア1サプライヤーであるデンソー、アイシン精機及び三菱電機株などを主要顧客とした業務の責任者を担当。その後、タイ・バンコックでの工場建設の代表取締役、発電所などの金属ガスケットやシール材などの開発・マーケティング担当を経て独立。工場の品質管理、生産管理及び労務管理の業務や、ISO審査員及び経営コンサルティング業務を開始し、現在に至る。

    この記事を書いた人

    Nikken→Tsunagu編集部

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